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じっと見つめれば

 食事会が終わり、二人で夜の道を歩いている。会話をすることもなく、ただ歩いているだけなのに、どことなく変な空気が流れていて、どちらからも声を掛けずらい状況なのは確かだ。 「直之……」  この空気を変えようとしているのか、少し前を歩く直之の名前を渉が呼んだ。振り向くことはせずに歩くペースを緩める。  それでも二人の距離は縮まらない――それはきっと直之のペースに合わせて、渉もペースを緩めたからだろう。 「ねえ、怒ってる?」 「別に……怒ってないけど?」 「うそ……さっきだって僕には食べろって言いながら、全然食べてなかったし、助けを求めても助けてくれなかったし」 「いつだって俺が助けられるわけじゃないんだし、ちゃんと自分でも対応できるようにしなきゃだろ?」 「まあ、そうだけど……」  違う――助けるも何も、正直言って渉の爆弾発言以降の話は全くと言っていいほど耳まで届いてくることはなくて――俺は目の前にいる渉へ視線を向けることさえ出来ていなかった。  人間――余裕が無くなると本当に何も入って来なくなるんだということが今日初めてわかった気がする。 「けど、上手く交わしてたじゃん」 「本当?」 「そりゃ、あの爆弾発言を投下すれば、みんなそっちの方が気になるだろうし、変にぐいぐい来ないだろ?」 「まあ、確かに。すごく近かった距離が少し遠くなった気はした」 「でっ、俺にも言えないの?」 「んっ?」 「気になっている奴いるっていうの、初耳だったんだけど……」  本当のことを聞くのが怖いという気持ちと、知りたいという気持ちで問いかけた直之に、しばらく渉は黙ったままで――直之も次の言葉を見つけられずにいる。 「知りたい……?」 「えっ?」 「僕の気になる人……知りたい?」  小さな声で問いかけられた言葉に、歩いていた足を止めてゆっくりと振り返ると、真っ直ぐに直之を見つめている渉がいた。  胸の奥がとくんと鳴る――決して逸らすことは許されない――そんな眼差しの渉が――…… 「なあ、誰だよ……お前の気になる奴……」  今度は直之が渉をじっと見つめたまま聞いた。いつまでも考えていたって埒が明かない。すっきりしないままモヤモヤするよりは、はっきりさせたいし、ある意味賭けだった。  じっと見つめれば――渉が何らかの反応をみせてくれるかもしれないという期待――いつも自分にだけ見せるあのそそられるような表情を――…… 「また、いつかね……」  そう言って直之の視線から逃れるように歩き出し、横を通り過ぎようとした渉の腕を咄嗟に掴んだ。 「聞いてきたのはお前だろ?」 「ちょっ、痛いよ……」 「教えろよ……渉の気になる奴……」  もう一度目を見て伝えると、俯いてしまった渉の耳が月明かりでもわかるほど赤くなっているのが目に留まった。  ねえ、その反応は期待してもいいってことだよな――……?  掴んだままの腕を解放すると、渉がハッとしたように直之を見上げ、その顔がまた直之の中でそっと鼓動を大きくした。

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