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おでこをくっつける
結局、渉の気になっている奴を聞くことは出来なかったけれど、あの日に見た反応は確かなものだと思うから――ねえ、渉……自意識過剰だって思われたとしても、信じていい?
俺の中でお前が特別なように、お前の中でも俺が特別なんだってこと。
「直之、帰りにカフェ寄る?」
「そうだな。寄ってこう」
「わかった。じゃあ、講義が終わったらカフェで待ち合わせね」
「了解」
昼休みが終わり、お互いに別々の講義を受けるために違う方向へと歩き出す。
自分の中にあるこの気持ちが何なのかはまだわからないけれど、少なくとも俺の中では特別な存在だということだけはわかっている。
誰よりも大切で守ってやりたいと思える。
いつからだろう――? 渉と過ごすようになって当たり前のように毎日一緒にいて、第一印象は最悪だったのに、一緒にいるうちに何も話さなくても空気みたいにそこにいる。隣にいても嫌じゃないというよりも、居心地が良いと思っている自分がいた。
ああ――こういうのが親友っていうのかもしれないと、そう思っていた。
講義が終わってカフェへ向かう道中で、「坂井くん」と呼び止められた。振り返ると馬渕さんと山瀬さんが手を挙げてこちらに歩いて近づいてくる。
「どうも」
「お疲れー」
「あれ? 田丸くんは?」
「いつも一緒ってわけじゃないし」
「私たちが見かける時は、いつも一緒だから」
「そういう二人もだろ」
「まあね。あっ、それから、この間はありがとう」
「いやっ、こっちこそ悪かったな。何か色々と……」
「ううん。じゃあまたね」
「ああ……」
色々と……というのはまあ――色々なわけで、渉のぶっ込んだ発言以降、直之の様子がおかしかったことには少なくとも二人は気づいていたはずだから。
少し立ち話をしていたこともあり、待ち合わせ場所であるあのレトロなカフェまでの道を少し急ぐ。
ちょうど学生たちのたまり場である、前まで使っていたカフェを通り過ぎて少し歩いたくらいに、後ろ姿の渉を見つけた。
声を掛けようとして挙げた手が宙に舞う――よく目を凝らすと、渉の前に背の高いスーツ姿の男が立っていて、親しそうに、そして今まで見た事のないくらい恥ずかしそうな顔をして話している渉の姿がある。
そいつ、誰――?
下ろした手をきつく握りしめる。
渉のあんな顔――見たことない。俺に見せる表情よりもずっと可愛い顔をしている――……
本気でムカつく――……
だけど、割って入れるほどの勇気なんて持ち合わせているわけでもなくて、直之は鉛のように動かなくなった体でそこに留まることしか出来ないでいた。
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