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ほっぺにキス
週明けの月曜日、何となくいつもより早く大学につき、よく渉と座って過ごす大きな木の下へと向かった。
するとそこにはもうすでに先客がいて、後ろ姿を見つけただけで少しそわそわしている自分がいる。
そっと近づき、ゆっくりと隣に腰を下ろす。驚いたように丸い目をして顔を上げた渉は、雰囲気が変わっていた。
一瞬考えるように顔を逸らしてみたけれど、もう一度確かめるように視線を戻す。
「あっ、お前……髪っ」
「う、うん……。どうかな?」
前髪のあった癖が抜けなのか、恥ずかしそう前髪に触れながら、問いかけられた言葉。出会った頃から変わらずに長かった前髪がバッサリと短く切られているどころか、後ろ髪もすっきりと切られていて、今までに見たことのない渉がそこにいた。
「へえ……似合ってんじゃん」
「本当?」
「ああ……」
「良かった……」
ほっとしたような顔をして、少し口角を上げている姿を見ると、何か可愛いって思ってしまう。
あれだけもっと顔が見たいなんて思っていたのに、いざ髪を切って素顔がはっきりすれば、それはそれで他の奴らに見られて可愛いってバレるのが嫌だと感じていたりして――。
でも、あれだけ頑なに切らないと言っていたのに、どういう心境の変化だったんだろう?
「何で切ったの?」
「それは……直之が切れって……」
「慣れたって言ってたのに?」
「っだよ……僕だって……」
「うそ、嘘……これでちゃんと渉の顔見れるし。やっぱ、お前の顔……すげぇ整ってるし……いいんじゃん」
つくづく思う。渉はいつも髪で隠していたけれど、しっかりと整った顔立ちは隠していても隠しきれていない。
だから、それなりに女子からも人気があるわけで、面と向かっての告白はないかもしれないが、影では色々と噂も聞くし、時には直之に直接、渉を紹介して欲しいと声がかかることもあった。
もちろん、そんなお願い事は適当に相槌を打ちながら、さらりと流してしまっていたわけだけど――。
「きっと、中学生以来かも。こんなに短くしたの」
「えっ、本気?」
「うん。でも、確かにはっきり周りが見えるようになったかも……」
「そりゃそうだろ。まあ、これで他の奴が渉が可愛いって気づくのも時間の問題かもしれないし」
「だから……可愛いって嬉しくないから……」
「はいはい」
可愛いって言葉を言うと、渉は少しムッとする。それが照れ隠しなのか、本当にムッとしているのかはわからないけれど、その反応も嫌いじゃなくて、つい言ってしまうこともある。
まあ、今言ったのはほぼ本心だったりもするわけだけど――。
「さっ、じゃあ講義行くか?」
「そうだね」
二人でゆったりとした時間を過ごすのは、あっという間に時間が経つ。
仕方なく立ち上がると、二人は講義に向かうため歩き出した。
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