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ほっぺにキス

「ちょっ、田丸くん!?」  大きな声が聞こえてきたと思えば、馬渕さんと山瀬さんが駆け足で近づいてきて、渉の顔をまじまじと見ている。  その距離の近さに、渉もたじたじだ。  直之が思わず自分の体を渉と彼女たちの間に割って入るほどだ。 「おい、渉がびびってんじゃん。近すぎんだろ?」 「いやっ、だって……髪が……」 「だからって、女二人でそんな近づく必要ない」 「そりゃ見るでしょ! もともとかっこいいって思ってたけど、思ってた以上に男前が隠れてたんだから」 「いいから、二人とも下がれ」  この二人がこれだけ反応するってことは、間違いなく他の奴らだって――そう思って周りを見れば、もうすでに注目されていた。  ほら、だから言ってるのに――。  どう考えたって俺が可愛いって思うんだから、他の奴が思わないわけがないんだってば――。 「そんな本気で怒んなくても……」 「言っとくけど、キャンプの時の盗撮のこともあるし、いくら馬渕さんたちでも、渉との距離感は保ってもらわないと」 「あーっ、あれは……」 「とにかく、俺に話しかけるのは百歩譲っていいとしても、渉が一人の時は、やっぱ無理だから……」  彼女たちが俺たちのことを面白がっている訳じゃないことは、話をしているうちにわかってきているけれど、それでもどこかであの食事会の時のことは引っ掛かっているのも確かだった。  色々と気にかけてくれているから相談相手まで昇格はしたといっても、完全に信用できるほどの関係ではないのも事実だ。 「やっぱあれ、信用できないよね」 「そりゃあね。渉のこととかで相談のってもらったりして助けられたりもしたけど、どっかで引っ掛かってる」 「だよね。きっと、どんな言葉並べても言い訳になっちゃうんだろうな……」 「そうかも……」  何処と無く重い空気が二人の間に流れていた。それを遮ったのは、「直之……行こう」と言った渉の言葉だった。 「じゃあ……」 「うん」  短く挨拶を交わすと、お互いに体をずらして通りすぎていく。  最低だ――俺。彼女たちの距離が近すぎて、気がつけばあんなこと――。 「直之……大丈夫?」 「あ、ああ……」  心配そうに覗き込んでくる渉から顔を逸らすと、少し前を歩いて行く。  そうでもしなきゃ、今の俺が普通じゃないって見透かされてしまいそうだから――。

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