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ほっぺにキス

「直之」 「渉……」  馬渕さんと別れて一人歩いていると、聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。  目の前には髪を切ってはっきりと顔の見えている渉が立っていて、思わず見惚れてしまう。 「どこ行ってたの?」 「ちょっとな。渉は、どうした?」 「一緒に帰ろうと思って探してた」 「お、おう……」  沈黙が続く中、二人で拳一個分ほど空いた距離で横並びになりながら歩いている。  話さないからといって気まずいわけじゃないけれど、やっぱり気になっていることは一つだろう。 「今朝は、悪かったな……」 「ううん。僕のためなんでしょ?」 「えっ?」 「僕のためにしてくれたことだってわかってるから、大丈夫だよ」  今までだったら隠れて表情の見えなかったはずの渉は、今ははっきりと顔が見えていて、嬉しそうに頬を赤く染めている。  その横顔を見ていたら、引き寄せられるように近づいていた。 「渉……」 「んっ?」  名前を呼べば顔をこちらへ向けることなく耳を寄せるように渉が近づいてくる。  何度も見てるはずなのに、その横顔にどくんと心臓が大きく脈を打つ。  好きだ――。  確かな想いを確信した直之は、そのままそっと渉の向こう側の頬に手を伸ばして固定させると、ちゅっとほっぺにキスをした。

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