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刷り込みだろ

ドスン、と男2人分が倒れこむ音がした。 しかも叫んじゃったし、近所迷惑で怒られたりしないか?と、少し冷静な自分が思った。 志貴に馬乗りの体勢で睨まれ、ふと復讐の事を思い出した。 まずい。 これ以上、志貴を怒らせたら、のちに恐ろしいことになるかもしれない、とどんどん冷静になってきた。 「し、志貴?急に掴みかかったりしてごめんな。 その…、なんていうか…」 「で、これは誰?」 相変わらず、高山さんのトーク画面が映し出されている。 「今度見学する予定のサークルの部長だけど」 「なんでサークルに入んの?」 「そ、そりゃあ…、大学生だから?」 まさか、志貴を避けるためとはいえず、自分でも「なんだそれ」と突っ込みたくなるような動機が出た。 「優聖がいなくなったら、誰が俺の飯作るの」 「…は?」 こいつ、モラ男みたいなこと言いだしたんだけど? 顔も頭も運動神経も良いのに、モラ男だなんて、将来の奥さんが可哀そうだ。 兄として、何とかそこは正してあげないと… っていうか、 「お前、弟とはいえ同い年だろ! 自分の面倒くらい自分で見ろ!」 そう叱ると、志貴はしゅんとした顔をして、床に貼り倒された俺の胸にしがみ付いた。 「一人にしないで、優聖」 小さいころに、心細い顔で俺の服の裾をつかみながら、ちょこちょことついて来る志貴を思い出す。 途端に、母性…、いや父性?…、正確には兄性??が擽られた。 立っていたら触れない位置にあるはずの頭を、よしよしと撫でてやる。 こんなに可愛いと思っていた弟が、実は俺の事が嫌いなんだよな… 「優聖、好き」 「え!?お、おお…、え??」 「どこにも行かないで」 「いや、俺も好きだよ、家族として」 「俺は家族だなんて思ってない」 「ええ!?」 家族だなんて思ってない、と言われて胸にえぐられたような痛みが走ったけど、こいつ俺の事好きって言ったよな? つまり…、恋愛として好きってこと? いやいや、そんなまさか…、本当に? これは、モラ男気質とともに兄である俺が正してやらないと。 志貴の「好き」は、おそらく、幼少期に俺が過度に志貴を構ってしまったための刷り込みだと思う。 志貴の隣には俺ではなく、可愛い奥さんが似合う。

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