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執着

「え、えっと、ひとまず退いて?」 いまだに俺の胸にすりすりしている志貴の肩を押す。 「久々に優聖に触れたのに…、もう少し、だめ?」 「だ…、ダメです!!!」 無理矢理引き剥がして、志貴から距離を取る。 可愛いふりしたって無駄だ。 なにせ、志貴は俺より10cmも背が高い大男だし、同い年の男なんだから。 「志貴の気持ちは嬉しいけど、 多分、それは刷り込みだと思う」 「は?」 志貴がめちゃくちゃ怖い顔で俺の顔を凝視する。 「だから、その…、志貴も大学で色んな人と関わってみたら、気持ちも変わると思うんだ」 「なにそれ?俺の気持ちを疑うわけ? 俺"も"ってことは、優聖も色んなやつと関わるってこと?俺を放っておいて?」 「疑うわけじゃないけど…、俺と志貴は距離が近すぎたんだ! だから、一旦、他の人とも…ー」 いつの間にか近くまで来ていた志貴に手首を掴まれて、また床に押し倒された。 ゴッと後頭部が鈍い音を立てて床にぶつかった。 「いってぇ…」 頭を抱えようとしたが強い力で手首を押さえつけられてて敵わない。 「優聖が他のやつと仲良くするなんて嫌だ」 「もぉ…、18歳なんだからわがまま言うなよ。 広い世界を知っておいた方がいいんだよ」 「知ったって俺の気持ちは変わらない。 変わるのは優聖だけだ。 そんなの駄目だよ」 志貴の俺への執着は異常だと改めて実感した。 現に、弟に2度も押し倒されて泣きたいのは俺なのに、志貴の方が傷ついた顔をして泣いている。 たとえ恋人だとしても、こんなふうに執着するのはおかしい。 ましてや、兄弟なのに。 「い、一旦落ちつこうな? カレー、作るからさ。な?」 気持ち悪い猫撫で声を出して志貴を宥める。 「…ん」 数秒、俺を睨みつけた後、 志貴はゆっくりと退いた。 そのままノソノソとソファの定位置に戻る。 俺はこっそりとため息をついて立ち上がった。 さっきぶつけたところ、ちょっとズキズキするなぁ。 そして俺は気まずさを誤魔化すように 熱心にカレーを作った。 「美味しい」と、志貴はいつも通りの様子で完食した。 が、俺はどうやったら志貴がまともに戻ってくれるのかと悩み、夜もちゃんと眠られなかった。

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