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弟の変化
ウェブから気になった創作料理の居酒屋に
エントリーシートのようなものを提出する。
それだけで少し緊張した。
そろそろ次の講義の時間になり、
俺は講義室に移動する。
冴木はどうやら、さっそく麻雀同好会で
新しい友人を見つけたみたいで
俺に絡んでこなくなった。
寂しいけど、新しい友人を作るのも醍醐味だ。
俺も早く新しい友達作りたいな。
そんなふうに同郷の友達を遠目に見ながら、俺は端っこの席に座る。
それから、最後の講義を受け、
家に帰る途中に知らない番号から電話がきた。
恐る恐る出てみると、応募した居酒屋からだった。
とにかく、3月にどっと人が辞めて猫の手も借りたいほどだったので、すぐにでも面接をして問題がなければ採用したいとのこと。
面接という言葉に緊張はしたが、
そうそう落とされる雰囲気ではなくて
かなり拍子抜けしてしまった。
まだ決まったわけではないのに、少し先が見えた気がして俺の気持ちは上向きになった。
この調子でバイト先もサークルも新しい友達も、
サクサク決まっていけばいいな。
俺は軽い足取りで晩飯の買い物をする。
今日はなににしよう。
こんなことを毎日している母親は偉大だったんだな、と改めて思った。
家に帰るとドアに鍵がかかっており、志貴がまだ帰っていないことが分かった。
ちょっと気まずかったし、まぁいいかと支度を始める。
学生向けの安アパートってどうしてこうもキッチンが狭いのか…
実家で母親の手伝いをしていた頃よりも、狭さのせいで上手くいかなくてイライラすることが多い。
就職したら、もう少しいい家賃のところの広いキッチンの部屋に引っ越そう。
その頃には、志貴はまともになってるといいな。
もう料理も終盤、といったところで
キッチンのすぐ横の玄関が開き、
志貴が帰宅した。
「ただいま。今日はなに?」
「お、おかえり。オムライスだよ」
「ん」
よく分からない言葉で志貴が頷き、通り過ぎ様に、俺を背後から抱きしめた。
「は?ちょっ、邪魔!」
俺は慌てて腕から逃れようとする。
と、回された腕に力がこもる。
こいつ、力強いんだよな。
「エプロンつけてる優聖可愛い」
「はぁ!?」
エプロンは、昨日のカレーを若干お気に入りのパーカーにこぼしてしまい、もう2度と犠牲を出さないために、慌てて服屋のチェーン店で買った有り合わせのものだ。
デザインだってネイビーのシンプルなものだ。
可愛いからは程遠い。
「優聖が将来のお嫁さんならいいのに」
「ちょっ、やめろってば」
こいつの嫁だなんてとんでもない。
っていうか、両親が泣くよ。
志貴の手をつねって「早く手洗いうがいしてこい」と洗面所に誘導する。
志貴は渋々と俺を解放すると、洗面所へ向かった。
思わず、深いため息をつく。
知らないうちに息を止めていたらしい。
こんなのが毎日って考えると…
さっさとバイトでもサークルでも
始めてしまいたい。
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