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嫌いになれたら
電話を切り終えると、横に志貴が立っていた。
ビクっと肩が跳ねたが、平然を装って携帯電話を返す。
と、腕を掴まれて俺はまた体がビクっとしてしまった。
ビビってしまっているのがばれて恥ずかしい。
「な、なんだよ!もうしないからな!」
俺が手を振り払うと、志貴は悲しそうな顔で俺を見る。
昔から、志貴のこの表情に弱くて、どんなにベタベタされて鬱陶しく思っても、結局は嫌いになれないのだ。
「手当…、する」
今度は優しく手を取られて、俺はつい抵抗を忘れてされるがままになっていた。
バスケ部だったからか手際がよく、
あっという間に消毒され、包帯を巻かれた。
「これで大丈夫」
思わず、「ありがとう」と言いかけて、下半身の違和感に気づき、口を噤んだ。
「2度とするなよ」
「…、約束はできない」
「は?」
「無理だよ。優聖と一つ屋根の下で間違いが起きないわけがない」
「起きないんだよ、普通!!」
大きな声を出したら、若干めまいがした。
もう今日は早く寝てしまいたい。
そう思って、俺は目の前に立ちふさがっている志貴を押しのける。
「どこ行くの!?」
必死の形相で志貴が俺の腕をつかんだ。
「邪魔。風呂入るだけ。すぐ寝るから、飯は自分でなんとかして」
また志貴はしゅんとする。
けど、親に報告せず、殴ったり、同居解消したりしない俺は優しすぎると思わないか?
普通に通報案件だし。
ムッとした表情を作ったまま、俺は風呂に入る準備をする。
着替えをもって浴室のドアに手をかけると、また志貴に肩を掴まれた。
「なんだよ」
俺は志貴を睨み上げた。
こんな時でも整った顔をしている高身長の弟が憎い。
「包帯濡れちゃうから…、俺が洗う」
「あんなことされて、そんなの許可するわけないだろ」
「じゃあせめて、防水させて」
そう言うと、志貴は包帯の上からラップを巻いた。
滑稽な姿になった。
また「ありがとう」と言いそうになり、俺は慌てて浴室に入り、鍵を掛けた。
全く、損な性格だと思う。
本気で志貴を嫌いになり切れないのだから。
母さんの「志貴くんをよろしくね」という言葉が頭にこびりついている。
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