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風呂上がり
少し苦戦しつつも夕飯を作り終え、
志貴の部屋のドアをノックする。
「腹減った」と言いながら部屋から出てきた志貴はテーブルの上を見て目を見張る。
「これ…」
「先輩に教えてもらった。味は保証しないけど」
「優聖はどんどん先にいくね」
「たかだか親子丼で何言ってんだよ。
昨日、先輩がここに来たのも、晩飯のアドバイスもらってたんだよ。
志貴だって毎日同じメニュー嫌だろ」
「ふーん。俺に食べさせるためなんだ」
「そ…、そういうことになるな」
違うと言おうとしたけど、俺が一人暮らししてたとしたら、ここまで自炊にこだわらなかったかもしれない。
「そういうことなら昨日のは許す。
けど、あいつと2人きりはダメ。
家に呼ぶ時は俺がいる日にして」
「もう呼ばないって。
先輩もそんなに暇じゃないよ。
っていうか、許すって…、許す側は俺だろ」
こいつ、自分がしたことのヤバさを、もう忘れてしまったのかと呆れた。
片付けは俺がやる、と志貴が言うので
奴に任せて俺は風呂に入る。
昨日よりは手首の傷は良くなっていたけど
かさぶたになった分、色が目立つ。
完全に消えて無くなるまで時間がかかりそうだ。
少し傷を庇いながら風呂に入り、
服を着替える。
最近、暖かいを通り越して暑くなってきた。
俺は半袖に短パンといった出立ちで
脱衣所から出ると共同スペースのソファで
志貴がくつろいでいた。
「あ、風呂待ってた?
上がったから、次どうぞ」
無視をするのもどうかと思い、
一応声をかける。
顔を上げた志貴は俺を凝視した。
「な、なに?」
あまりにじっと見られるので、俺は仕方なく聞いた。
すると志貴は立ち上がり、俺の目の前に立った。
俺は少し怯んで、数歩後ろに下がる。
「明日、絶対に肌を出さないで」
「肌?」
「こことか、こことか…、見せたら変な気を起こすやつが出る」
言いながら俺のうなじや太ももを触る。
その手つきが嫌で、俺は手を払い落とした。
「触るなって。野郎の足とか首を見て変な気になるやつなんかお前くらいだって」
「俺はその先輩だって信用してない」
「少なくともお前よりは信頼できるわ!」
と俺は志貴から距離を取り、自室に戻るべく、志貴に背を向けた。
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