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恐怖

そこからはもう、内臓を押し出されるような圧迫感と痛み、そしてその先に苦しい快感のようなものに耐えるのに必死だった。 ただ、早く終わって欲しいと涙を流していた。 志貴も最初は俺の顔を満足そうな顔で眺めていたが、だんだんと余裕がない表情になり、 「うっ」と小さく呻くと俺の中で動きを止めた。 そこで俺は最後の絶望を覚えた。 中に出されてる… 「最低…、早く抜けよ」 俺は吐き捨てるように言った。 本当に最悪な気分だ。 志貴は何も答えず、俺の体にしがみついている。 まるで、愛しいと言うように抱きしめてくる。 こんなの、愛なんかじゃない。 「離れろ。俺に触るな」 精一杯の憎しみを込めて言うと、志貴は体を起こした。 不安そうな顔で俺を見下ろしている。 「お前なんか家族じゃない。大嫌いだ」 「やだ。嫌いなんて言わないで」 めそめそと泣き始めて、俺はため息をつく。 泣きたいのは俺の方だ。 昔から志貴が泣くと、俺はなんとか泣き止ませようと躍起になっていた。 が、こんな冷めた気持ちで弟の泣き顔を見たのは初めてかもしれない。 心配する気持ちは1ミリもなく、憎しみだけがある。 「優聖のこと、本当に好きで…、誰にも渡したくなくて…、ごめん。ごめんなさいっ」 「いいから抜け」 そう言うと、志貴は鼻を鳴らしながら、俺の中に入っているそれを抜いた。 「うっ…」 抜けていく感触が気持ち悪い。 その数秒後に、どろりとしたものが俺の尻を伝った。 「んん…」 最悪だ。 あいつが出したものだ。 志貴は俺の尻をガン見している。 あろうことか「えろ…」と言う呟きが聞こえた。 「お前、状況分かってんのか?」 「…、俺、優聖の心、いらない。 優聖そのものが俺のものになるならそれでいい」 「…は?」 開き直ったようなその態度に死ぬほど腹が立つ。 心はいらないってなんだよ。 「優聖をここから出さない」 「お前…、何言ってるか分かってるのか?」 「俺もう優聖がいないの、耐えられない。 どうしたって嫌われるなら、体だけでも俺のものにする」 「何言って…」 そう答えた俺の声はあり得ないくらいに震えていた。

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