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初出勤なのに?
22時になり、テーブルのバッシングをしていると、咲先輩が来た。
「優聖くん、もう上がりでいいって」
「あ、分かりました」
「あとは私がするからいいよ」
「は、はい」
俺はダスターを先輩に渡した。
10時で上がりか…
家に帰るの、少しやだな。
それが表情に出ていたのか、
「上がっていいよって言われてそんな顔する人初めて見た」と、咲先輩が笑った。
「あ、すみません。家に帰るのが嫌で」
「ふーん?寂しがり屋なの?」
「さ!?違います!!」
とんでもない勘違いをされそうになり、俺は慌てて首を振った。
むしろ、一人暮らしならどれほど良かったことか…
しかも、こんな勘違いをされたら、絶対サークルでネタにされる。
「同居人と馬が合わないだけです」
「同居人いるんだ〜。え、まさか、あのキスマのメンヘラ彼女?」
「え、いや…、弟です…」
メンヘラの弟、とはいえず
俺は曖昧に訂正した。
「弟くんと住んでるんだ〜。
仲悪いんだね。
うちは妹と仲良いから、兄弟で同居なんて羨ましいけどな〜」
俺はテキトーに笑って合わせて、「じゃあ、お先に失礼します」とその場を後にした。
お客さんはもうほとんどがはけていて、
どのテーブルもラストオーダーが済んだようだった。
混雑時に比べて、お店の雰囲気が落ち着いていて、なんだかこっちの方が好きだ。
タイムカードを切ろうとすると、事務作業をしていた店長が「続けられそう?」と聞いてきた。
「あ、はい。まだまだ接客が上手くいかないですけど、皆さん優しくて…、働きやすかったです」
「そうか〜。良かったよ。長く続けて欲しいな」
「もっと上手くできるように頑張ります」
「いやいや。初バイトでしょ?無理しすぎないでゆっくり慣れていってね」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げて、タイムカードを切り、帰り支度をした。
「お疲れ様です」と声をかけ、店を出ようとしたところで、咲先輩が来た。
「店長〜!優聖くん、帰りたくないって言ってましたよ」
「え?」
「おうち、帰りたくないんだよね?」
「え?いや、まぁ…」
咲先輩の言わんとしていることが分からず、俺は曖昧に頷いた。
「そうなの?じゃあ、うち来る?」
「え???」
何を言っているか分からず、俺は首を傾げた。
「私たち、よく店長の家で皆で宅飲みしたりするの。居酒屋ですることもあるけど、閉店時間決まってるからさ」
「は、はぁ…」
「いつでも泊まれるよ!」
「おい、俺は店長だぞ」
「だって、本当じゃないですか。あ、私も行っていいですか?」
「今日はだめだ。流石に男2に女1人はマズイだろ」
「私のこと女だと思ってないくせに」
「それに、優聖くんは未成年だから宅飲みはしないから。とりあえず、泊まって行きなよ。締め作業終わるまで、空いてる卓に座って待ってて」
「え、え??」
あれよあれよという間に空きテーブルに座らせられ、ウーロン茶を出された。
家に帰らなくて済むのは良いけど、店長の家に泊まるなんていいんだろうか…
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