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無味

絶妙な手の動きに目を閉じて耐える。 どのくらい弄られたんだろう… 俺の体は期待で少し反応してしまっていた。 志貴の手がピタリと止まる。 ほっとして目を開けると、横にいる奴が俺をじっと見ていた。 満足そうに笑みまで湛えて。 「ヒッ…」 今度こそ本当に悲鳴が漏れた。 起きてたのか!? 「朝起きても隣に優聖がいるの、幸せだ」 「…なにが」 「いつも、俺の手をうっとおしそうにどけて、さっさと布団から出ちゃうだろ? こうやって縛っておけば、それもないんだね」 「…」 こいつ、そんなことでいちいち傷ついてたのか… どんな理由があれ、拘束するのは監禁罪になるとは思うけど、俺の態度で少しずつ志貴が壊れていったのだとしたら、ほんの少し同情する。 ほんの少しだけど。 「俺を起こさないようにじっと耐えている姿も、いじらしくてとっても可愛かったけど、やっぱりちゃんと俺を見てほしいな」 「きも…」 思わず声が漏れた。 しまったと思ったが、志貴は楽しそうに俺の髪をかき分けていた。 俺はそもそも、まったくもってイケメンという部類には入らないが、寝起きの顔は普段の顔よりかなり見劣りする。 が、こいつは寝起きでも、朝日を浴びて神々しく光り輝くイケメンだ。 そして鳴り響く俺の腹の音… かなり恥ずかしいが、土曜の朝に店長と朝飯を食べて以降、24時間近く何も口にしていない。 「ああ…、お腹すいちゃったよね。準備してくる」 そう言って志貴が立ち上がった。 あんなに炊事はやりたがらなかったくせに、こういう時は動くんだなと俺は鼻白んだ。 数分後、「はい」と手渡されたのはカップ麺だった。 やっぱりな… 「まさか毎食これ?」 「だってしょうがないじゃん。俺は飯作れないし、優聖は逃げるでしょ」 当たり前だろ、と言いかけて、そんなこと言ったら一生解放してもらえないと思い、口を噤んだ。 こいつの手料理食べるよりはマシかと、ため息を吐いて受け取る。 「ちゃんと出前とかも取るから」 「いいよ別に。節約しろ」 「…、うん」 俺のベッドで並んで静かにラーメンを啜る。 いつもは味が濃すぎると感じるそれは、今日は味がしなかった。

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