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半年後(優聖視点)

高山さんと咲先輩に連れ出されて 俺は少しずつ普通に戻って行った。 泊めてくれた高山さんには感謝しかない。 ちゃんとご飯も食べられて、大学にもサークルにもバイトにも行けている。 これで良いんだ これが健全な生活だ でも…、志貴はちゃんと生活できているんだろうか? 不安でたまに口をついて「志貴、大丈夫かな」と呟いてしまう。 その度に、高山さんや咲先輩に 「もうあの子のことは気にするな」と 咎められる。 「優聖にしていたことは許されることではない」のだとも言われた。 それでも、志貴なりに俺を思ってくれているということは伝わっていた。 やり方は間違えていたけれども。 それに、出会ってからずっと同じ家で過ごしてきた家族なんだ。 親よりも共有していることが多い。 ほんの少し…、志貴が恋しい。 志貴が追いかけてくるかもしれないと皆が警戒していたが、その様子はなかった。 大学もバイト先も知っているはずなのに、そこにも現れなかった。 少し拍子抜けしてしまう。 半年近く高山さんの家にお世話になってしまっている。 高山さんは4年生だし、どんなに許してくれてるとはいえ、今年度でいなくなってしまう。 早く自立しなきゃいけない。 でも、バイト代だけでは一人暮らしなんて出来ない。 いずれはあの部屋に帰らなくてはならない。 両親に相談するにも、志貴とのことを説明するのは難しい。 心は回復したけれど、また別の問題で俺は精神的に疲弊してしまっていた。 高山さんが就職先からの指示で2〜3日、部屋を開けると言って出かけた。 俺は意を決して、あのアパートへ向かった。 外から見る限りでは、半年前の何も変わっていない。 俺はバクバクする心臓に手を当て、ゆっくりと階段を登った。 インターフォンに指を当て、逡巡した。 押したら、志貴に会うことになる。 また拘束されたらどうしよう… そのまま、数分が過ぎた。 ドアの向こうで物音がして、玄関が不意に開かれた。 俺は目を見開いたまま、固まった。 ドアを開けた部屋の主…、志貴も俺と目が合った瞬間、目を見開いて固まった。 数秒が、何時間にも感じられた。 「あ…、えっと…、久しぶり」 なんとか声を出した。 「…うん」 志貴は気まずそうに俺から目を逸らした。 その顔は少しやつれている気がする。 「お前…、ちゃんと飯食ってんの?」 思わず、小姑のようなセリフが出た。 「…、食えるわけないだろ。眠れねぇし…」 絞り出すような声で志貴が言った。 志貴が悪いはずなのに、俺の心臓がぎゅっと痛んだ。 こんなの見られたら高山さんに怒られる。 だけど、俺はその細くなった長身を抱きしめていた。

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