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認めない
以前のような独りよがりな行為ではなく、志貴は俺の反応を見ながら「嫌」といえば中断してくれた。
少し物足りないような気もしたけど、「心はいらない」と言っていた志貴が変わったようで、俺の心は満たされていた。
兄弟でこんなの、歪んでいる…と思うのに
隣で疲れ果ててスヤスヤと寝息を立てる志貴が
ずっと俺を好きでいてくれれば良いと思う。
縛らなくても俺はここにいるのに、志貴は俺の手を握って離さずに寝ている。
不意に俺の携帯がラインのメッセージを受信した。
表示を見ると高山さんだった。
『お土産、どっちがいいかな?』
一緒にお菓子の画像が送られてきた。
どちらも美味しそう…
一瞬悩んだが、俺はまた高山さんの家に戻ることがあるのだろうか?
このまま、この部屋に住んでしまってもいい。
でも、そんなこと言ったら高山さんは怒るだろうか。
『悩んでる?笑』
そんなメッセージが来て、一瞬ギクリとしたが、お土産の話だと思い至った。
「どちらかというとチョコが好きです」
と返しておいた。
そのお土産を受け取る機会があるだろうか。
「優聖?」
志貴が起きたようだ。
空いた手で目を擦りながら俺を見上げる。
「おはよう。っていっても夜だけど」
「あの後、俺、寝ちゃったんだ。優聖は起きてた?」
「起きてたよ。最近はバスケしてるし、お前より体力あるのかもな」
「…、手加減したし」
俺が余裕そうなのにムッとしたのか、志貴が拗ねたように言った。
「手加減って…、前までのお前が無茶苦茶しすぎなんだよ」
頭を小突いたら、志貴は笑った。
「たまには手加減抜きで抱いてもいい?」
「…、い…、はぁ、しょうがないな」
嫌だと言おうとしたが、志貴があまりにも期待のこもった目をしていたので渋々頷いた。
「明日は?」
「はぁ?毎日していいわけないだろ。明日はそういうこと自体、禁止」
あまり調子に載せすぎるのは良くない。
いい具合に釘を打っておかないと。
俺がピシャリと言うと志貴はしょんぼりとしながら、「明後日は?」と聞く。
イケメンで成績も良くて運動神経が良くて、俺の数倍バスケが上手くて…、高校まで女子にキャーキャー言われてた、あの志貴が…
こんな冴えない平凡な兄に「やらせてください」と縋っているようでなんとも情けない。
俺は同情して「しかたないなぁ」と言うしかなかった。
志貴は嬉しそうに俺の手をにぎにぎしている。
こいつが双子の兄弟なんて…、認めたくない。
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