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3-1 惚れ薬

 昼過ぎに客がやって来た。 「よお、エスター、新鮮なイノシシが捕れたぞ」  大きなかたまり肉を背負ってきたガロンは、月に数回、食料品や日用品を届けてくれる気のいい男だ。 「へえ、おいしそう」  ほかにも細々した物を受け取っていると、シャールが顔を出した。 「ガロン、ちょうどいいとこに来たな。一昨日、黒蛙の珠がとれたぞ」 「え、そうかい?」   ガロンがうれしそうに笑う。黒蛙の珠が出ると、シャールはいつも研究室にこもって薬を調合するのだ。それをガロンがどこかへ運ぶ。 「明日にはできるかな」 「じゃあ、近いうちにまた来るよ」  うなずいたシャールがそそくさと階段を上ろうとするので、エスターはあわててマフィンを渡した。いつもは午後のお茶の時間を取るけれど、薬の調合を始めるとほとんど下りてこないからだ。 「シャール、休憩の時に食べて」 「ああ」  シャールが気もそぞろな様子で上に戻り、エスターはガロンを振り向いた。 「ガロン、お茶でもどう?」 「もらうよ。エスターのマフィンはうまいからな」  天気がいいので庭のテーブルにお茶の用意をする。  エスターが来た頃には荒れ放題だった庭もちゃんと手入れがされて、大部分は野菜畑になっていた。 「魔術の方はどうだい?」 「だいぶ上達したよ。ドラゴンの赤ちゃんをあやせる程度に」 「そりゃいいや。西の空にはドラゴンがたくさん出るらしいな」  ガロンはマフィンを口に放りこみ、ごくごくと紅茶を飲む。 「やっぱうまい。で、魔術は順調なのに、どうしてそんな浮かない顔なんだい?」 「うん……」  師匠が好きだなんて言えずに口ごもると、ガロンはにやにや笑って「シャールのことか」とからかった。 「べつに、そんなんじゃないけど」  ガロンはエスターの気持ちを察していて、時々こうしてからかってくる。見た目に反して人の気持ちを読むのがうまい男なのだ。 「エスター、黒蛙の珠からどんな薬ができるか知ってるか?」 「いや、知らない」 「そうか。内緒だけどな」  ガロンはちょいちょいと指先でエスターを呼ぶ。 「実は惚れ薬なんだ」 「え? 惚れ薬?」  黒蛙が珠からエスターが何か薬を作って、ガロンがそれを受け取ることは知っていた。でも惚れ薬だとは知らなかった。というか、師匠がそんな世俗的な物を作っているとは予想外だ。  きょとんとしているエスターを、ガロンは出来の悪い子供を見る目つきで見た。 「エスター、この世で一番売れる薬は何か知ってるか?」 「知らないけど……、惚れ薬なの?」 「そうさ。人の気持ちがこの世で一番動かしがたいものだからな」  ひょうひょうとうそぶくガロンを、エスターは疑わし気な顔で見た。 「それ本当に効くの?」 「ああ。シャールが作った薬だぞ? 効かないと思うのか?」 「それは……」 「じゃあ試してみるか?」 「試すって?」 「惚れ薬は二種類ある。ひと晩、その気になって思い人と熱い一夜を過ごせるものと、思い人の興味を自分に向けさせるものだ。お前さんならどっちを飲ませたい?」 「どっちって」  エスターは十四歳でここに弟子入りして、恋愛経験はまったくない。当然、体の方も未経験だ。

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