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「薬でどうこうなるなんて嫌だな」  それを聞いた呆れた顔でガロンはため息をついた。 「純粋培養も善し悪しだな」 「どういう意味?」 「お前さん、ここでずっとシャールしか見てないから、自分の事がわかってないんだよ。町に出てみれば、女たちが放っておかないと思うがね」  ガロンが急にそんなことを言うので、エスターは首をかしげた。 「町に行ったことくらいあるよ」 「じゃあ、町の娘に言い寄られたこともあるだろ?」 「ないとは言わないけど」  買い物に行った店や休憩に寄る茶店などの娘から、誘われたことはある。一緒に祭りに行こうとか湖に遊びに行こうという誘いだ。  そのどれにもエスターは行ったことがない。 「なんで? 行ってみたらいいのに。町までお使いに出すのはシャールの気遣いだと思うぞ」 「わかってるよ」  シャールはエスターが友達や恋人を作ればいいと思って町に行かせるのだ。 「でも友達はいらない。シャールがいれば俺は満足だ」 「重いな、お前」  ズバリと言われて、エスターは落ち込んだ。 「しょうがないじゃん。一目惚れなんだから。シャールはきれいだし魔術の腕はいいし、生活はめちゃくちゃで世話をしないと死にそうになるし、そのくせわがままだし」  師匠はとても手間がかかる。エスターはシャールの気まぐれに振り回されて、気が休まる暇がない。でも手がかかるほどかわいいのだ。  惚れた欲目とは恐ろしいな、とガロンは笑った。 「ありゃエスターに甘えてるだけだよ。お前さんが来るまでは一人で野垂れ死にすることなく何とかやってたんだから」  そこに森からカーラが戻ってきた。 「あら、ガロン。いらっしゃい。ラルフの店のビーフジャーキーは持ってきてくれた?」 「ああ、荷物に入れといたよ」 「ありがと。あれ最高よね。エスターはどうしたの?」 「シャールが好きでたまんないけど、どうしていいのかわからないんだとさ」 「あらまあ。そんなの簡単よ、月夜に側に寄って体をやさしく舐めてあげたらいいのよ」  猫のカーラのアドバイスに、エスターは「そうだね」と適当にうなずいた。 「本当よ、エスター。このやり方は人間にも通じるわ」  そうだろうか。でも確かにシャールの体は舐めたい。いやいや、何考えてんだ。 「で、どっちの薬にする?」 「そんなの無理だよ」  ひと晩、シャールを好きにできるというのは魅力的だが、その後、今までと同じ態度を取られるのはキツイ。気持ちを向けさせるほうが安全な気はするが、いやだめだ、薬なんかに頼るのは。 「まあモノは試しだ。これ、やるよ」  ガロンは背負い袋の中から小さなガラス瓶を取り出して、強引にエスターの手に握らせる。 「え、いや、だめだって」 「大丈夫だ、エスターが作ってるんだから」  確かに本人が作ったなら、安全は安全だろう。 「まあいいじゃねーか。いっぺん試してみれば。いい結果になりゃラッキーだろ?」  ガロンはそう気楽に言って帰って行き、エスターの手の中には明るい緑の液体が入ったガラス瓶が残された。  ていうか、これ、どっちの薬?

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