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4-1 効果のほどは?

 数日間悩んだ末に、エスターは薬を試してみることにした。  シャールは相変わらず下着一枚でうろうろするし、シャツがはだけた寝姿は扇情的だし、頭を撫でたり抱き着いたり、「いい子だな」と頬にキスしたり膝枕をさせられたりとやりたい放題で、つまりエスターの我慢も限界だったのだ。  どうにか今の状況を変えたい。すこしでも気持ちを向けてくれないかと考えた末、ガラス瓶を手に取った。  シャールの夕食のシチューにほんの数滴、緑色の液体を落とす。  食事のあいだ落ち着かなくてドキドキしたが、シャールは普段と変わらなかった。  量が少なかったのかな。いや、見た目にはわからないものかも。気持ちを向けさせるなんてどういう状態になるんだろう?  それとも、ひと晩好きにできるってやつだったらどうしよう?  「お前ももう十八歳か。祝いは何がいい?」  ワインを飲みながらシャールが問いかけた。リラックスした態度で普段と違うところはなさそうだ。 「祝いなんていらないよ」 「お前は本当に欲がないな。欲しいものくらいあるだろ?」  あるに決まってる。あんただよって言ったらどうする? 言葉にできずにパンを噛んだ。緊張しているせいか、なんだか体が熱い。 「じゃあ考えとく」 「ああ、そう言えばさっき、黒コショウをかけすぎたから、おれとお前のシチューを取り換えたんだ。そっちはコショウ辛くなかったか?」  シャールの言葉にエスターはビクッとした。取り換えた?  「あ、そうなんだ。いや、べつに平気」  動揺したら急に熱が上がった気がした。 「どうした、エスター。顔が赤いぞ」 「何でもない」 「そうか? デザートは焼きリンゴ?」  さっきからリンゴを焼く甘い匂いが部屋に漂っている。  体の熱さは惚れ薬のせいなのか? 「エスター?」  シャールに顔をのぞき込まれて、エスターは湧きあがる欲望に怯えた。今まで抑えていた気持ちが急激に膨らんだ。ここにいたら何をするかわからない。 「俺、もう寝る。おやすみなさい」 「エスター?」  驚くシャールを置いて、急いで自分の部屋に駆け込んだ。  やっぱり惚れ薬なんて使うんじゃなかった。そんな卑怯なことを考えたから、罰が当たったんだ。シャールに飲ませなくてよかった。  薬の効果が早く切れますようにと水を飲んでいると、ドアが開いた。 「エスター、おれに何か言うことはない?」  シャールはいたずらっぽく笑っている。お見通しなのかも。そうだよな、自分が作った薬を入れられて、シャールが気づかないはずがない。 「ごめん、シャール。ガロンにもらった惚れ薬をシチューに入れたんだ。でもシャールが食べなくてよかった。自分でもどうなるかわからないから、しばらく一人にして。説教なら後で聞くよ」  体内からじりじりと熱さが湧いてくる。エスターが必死に告げたのに、シャールは困った子供を見るような顔でエスターを見つめていた。 「お前がそんなに鈍く育ったのはおれのせいだってカーラは言うんだけど、絶対もともとの性格だと思うんだよね」  ぽふっとベッドに座って、おいでおいでと手招く。 「シャール、出てって。俺、いま何するかわからない」 「いいから、ここに来て座れって」  命じられて仕方なく隣に座った。  ふわりとトワレの香りがして、体の熱がさらに上がる。何とか自制しようと思うけれど、目の前のシャールは楽しそうに笑っていて、怒ってはいないらしい。 「お前、ほんとかわいいな」 「触らないでよ」  髪を撫でられて、エスターはビクッと身を引いた。 「何それ、傷つくなあ」 「いいから出てってってば」  必死に耐えているエスターにシャールは今度は拗ねた顔を見せた。  「おれが必死で誘惑してるのに、全部スルーしちゃうんだもんな」 「え?」 「真面目で一本気なとこ好きだけど、もうちょっと融通利かせろよ」  シャールの顔が近づいたかと思うと、唇にやわらかい感触がした。  え? どうなってんの?

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