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「あんなにあからさまに誘っても気づかないとか、やっぱおれの育て方がわるかったのか?」
舌先で誘いかけられ、呆然と唇を開くとするりと入ってきた舌が口蓋をくすぐった。ぞくぞくと背筋を這いあがる感覚に震える。この先に進んでいいのか?
「なあ、難しいことじゃないだろ?」
そっと絡んできた舌に翻弄されながら、わかったのはシャールが好きだということだけだった。
舌先であちこちをくすぐられて、たわむれあって吐息を交換する。
「ひょっとして、俺を誘ってたの?」
「ほんと鈍いな。まあそこがかわいいんだけど」
手早くシャツを脱がせてエスターを押し倒しながら、シャールが悪い笑顔を浮かべる。
「ガロンの奴に変な知恵をつけられる前に、言うことあるだろ?」
「ごめん。シャールが好きなんだ。でも絶対相手にしてもらえないと思ってたから。惚れ薬なんて卑怯な手を使ってごめん」
「べつに卑怯だとは思ってないけど、まあいいさ。罰として今夜はおれがひと晩、好きにさせてもらうから、覚悟しろよ?」
そのセリフにエスターは赤くなったり青くなったりした。
一体何をされるんだ? 経験がまったくないどころか、他人との交流も少ないエスターは知識もそんなに豊富じゃない。
「町で誰かと経験しなかったのか?」
「ないよ」
「おれの弟子はそんなにモテないはずないんだけどな?」
「好きじゃない子とどうこうしてもしょうがないし」
エスターの返事にシャールは苦笑して、エスターの体に手を伸ばした。手のひらで輪郭を確かめるように肩から胸、腹へと撫でられて、エスターは身をよじった。
「いやか?」
「くすぐったいだけ。それに俺もシャールに触りたい」
「好きに触っていいぞ」
その言葉で勢いづいて、シャツのボタンを外して、いつも触れたいと思っていた素肌の背中に腕を回した。胸が密着してどくどくと速い鼓動が伝わる。
「めちゃくちゃ心音速いな」
「当たり前だろ、全部初めてで、すっげー緊張してるんだから」
シャールは「なんか若い娘をたぶらかしてる悪いオヤジの気分だ」と言いながら、エスターの吃立に触れた。もうすっかり渤ちあがって、痛いくらいだ。
「触らないでよ」
「え、なんでだよ。触らないでするつもりか? 変わった趣向だな?」
シャールのからかいにエスターは焦った顔をする。
「ダメだって、すぐいっちゃいそうだから!」
止めようとしたのに、ほんの少し手で擦られただけであっけなく絶頂を迎えた。
シャールの手に放ってしまって真っ赤になるエスターに「惚れ薬飲んだからしょうがないだろ」と平然としているのも悔しい。経験値の差を見せつけられたような気分になってしまう。
「なんか悔しい」
「まあまあ、若いしすぐに復活するだろ」
「シャール、オヤジくさい」
恥ずかしいのと照れくさいのとでエスターはもごもご文句を言ったが、実際、体の熱さはまったく治まらなかった。
「オヤジも何も、お前より二百歳も上なんだけど」
「いいからもう黙って」
エスターはキスで言葉を封じた。
互いに素肌で触れ合うと、さらに熱は上がった。こっそり見つめていた肌に触れて、口づけあって、溶けてしまいそうな気分になる。
シャールの体をあちこち甘噛みしながら舐めていると、カーラのセリフを思い出した。
「月夜に側に寄って体をやさしく舐めてあげたらいいのよ」
なるほど、こういう気持ちか。
肌で触れ合う気持ちよさをエスターはわかってなかったのだ。手のひらに伝わる体温や、耳元で感じる息づかい、体内を駆け巡る快感の強さも、どんどん速くなる心臓の音も。
「シャール、抱きたい。抱かせて」
気持ちが高まって思わず口に出したら、シャールは楽しそうに口角を上げて、髪をくしゃくしゃと撫でた。
「そうそう、そうやって正直に言えよな」
「うん、ごめん」
渡された香油はふわりと花の香りがした。香油をまとった指を差し入れると、シャールが色っぽいため息をついた。
「痛くない? どうするのがいいの?」
シャールが教えた通りに指を増やして抜き差しするうちに、内部がやわらかく変化していくのがわかる。
「んっ、そこ、気持ちいい……あっ、ああ……」
蕩けた声を聞いているうちに、エスターは完全復活していた。
シャールに誘われてゆっくり体を沈めていく。ほころんだところに押し当ててぐっと体重をかけると、やわらかく受け入れて包み込まれた。熱くて気持ちよくて、さらに隘路を開いていくとシャールの背中がカーブを描いた。
「ん……っ、あ……」
「大丈夫?」
「平気……、奥まで、来いって」
熱い内壁で締めつけられて、エスターが我慢できずに奥まで突きあげた。ベッドに散った銀の髪がきれいで、エスターが体を揺らすたびに髪も揺れた。
シャールが目を細めて快感をこらえている。
「気持ちいい。もっと動いていいぞ」
シャールの言葉に、初めは遠慮がちだったエスターの動きが、徐々に大胆に滑らかになっていく。
「どうしよ。めちゃくちゃ気持ちいい」
はっはっと短い息を吐きながら腰を大きくグラインドすると、びくっとシャールの体が跳ねるところがある。
「ここ? これが好き?」
「んっ、いいよ……っ、そこ、あ、ああ……っ」
こねるように腰を動かしてそこを突いたら、ぎゅうっと内壁が絡むような動きをする。
「すごい……」
こんなふうにお互いに気持ちがいいなんて、予想もしていなかった。もっともっとと深い快感を求めて、本能で体は動く。
シャールが自分を相手にしてくれるなんて本当に思わなかったから、うれしさが突き抜けて何を考えていいかわからなかった。
とろりと蕩けた頭と体で、エスターは思う存分シャールをむさぼった。
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