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閑話 使い魔の一日①

 ユキは由緒正しき狐の魔物である。  しっぽの数はまだ二本しかないけれど、しっぽの数を増やすべくユキは日々努力している。恩を決して忘れない狐の誇りにかけて、ユキは立派な使い魔となり、主人に恩返しをするのだ。  今日も朝日のもと、ユキは一生懸命走り込みをする。 「ユキ、それはお前のしっぽだ。追いかけてると目が回っちゃうよ」  ユキの命の恩人であり、つい先日主人ともなった澄也が困ったように口を挟む。澄也だって強くなりたいと言って毎朝ぐるぐると森の周りを走っているというのに、同じことをしているユキの気持ちは分からないらしい。ひどい話だ。 『きたえてるの』 「ここは狭いし、頭をぶつけたら大変だ。神社でやろう。ほら、行こう」 『いや!』  神社という言葉を聞いた途端、ユキは澄也のベッドの下に逃げ込んだ。 『ユキも学校にいく』 「だめだよ。学校には連れていけないんだ。神社なら白神様がいるから、俺が学校に行っている間は遊んでもらうといい」 『ぜったいいや』  澄也が白神様と呼ぶしろくてでかくて怖いやつ。気配は怖いし、ユキの扱いは雑だし、今日の夕飯の肉がないと言ってユキをじっと見つめていたことだってある。あいつがいるからユキは神社に行きたくないのだ。 「なんで嫌なんだ? 夕方はいつも一緒に行くじゃないか」 『夕方はスミヤがいる』 「そんなに俺と一緒にいたいのか?」 『うん』  ぽりぽりと困ったように頬をかきながら、ほんのりと澄也は笑ったように見えた。ユキは澄也の使い魔であるので、もちろんいつでも一緒にいたい。一匹で神社に行きたくないのは意地悪なしろいやつと一対一になりたくないからという理由の方が大きいけれど、賢いユキは何も言わずにおいた。 「ユキは甘えただな。でもまだちっちゃいし、仕方ないか」  ユキは小さくない。絶賛成長中である。澄也の方が人間基準で言えばちっちゃいと思う。何しろ澄也はまだひとりではエサも狩れないし、あぶない場所も分からないのだ。その割には親がそばにいないのが不思議だけれど、一度聞いたときに悲しそうな顔をしたので、それ以来ユキは聞かないことにした。  澄也もきっとユキと同じなのだろう。でなければあんなこわいしろいやつと好き好んで一緒にいるはずがない。頼りない主人のことは、ユキがしっかりと面倒を見てやらなければならない。ユキは決意した。 『ユキも学校にいく。連れてってくれないならここからでない』 「……静かにするって約束できるか?」 『できる!』 「今日だけだからな」  開かれた鞄の中に勢いよく飛び込んで、ユキは満足げにしっぽを揺らした。

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