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第24話 これは恋かと問いかける②

「俺は白神様に恋をしてるのか?」 「また唐突にどうしたんだい」  澄也の言葉を聞いた途端、白神様は吹き出しかけて、思い直したように真面目な顔を作った。取り繕ったって笑ったことは分かっている。じとりと睨めば、先を促すように白神様は手をひらめかせた。 「ずっと頭から離れないひとがいるって言ったら、それは恋だってひまりが言った」 「ふうん」 「これが恋なら、恋人になれば何か変わる?」 「おや、坊は私と恋人になりたかったのかい」  それは初耳だと笑いをこらえるように白神様は言う。人が真剣に悩んでいるのに、と怒りが湧くが、このひとがことあるごとに面白がるのはいつものことだ。いちいち腹を立てていてはきりがない。 「分からないから悩んでるんだ」 「そうだねえ……恋人と言っても色々あるよ。坊くらいの年ごろなら、一緒にいる時間を増やして、相手のことをもっと知るために恋人とやらになるんじゃないのかい。坊は私と毎日会っているのだから、変わらないのではないかな」 「たしかに」  頷きかけて、ふと澄也は眉を寄せた。 「『俺くらいの年ごろなら』って、白神様なら違うのか?」 「今日はえらく聞きたがりだねえ。私は、そうだね……暇つぶしか、情を交わすためか、その辺りかな」 「情を交わす」 「まぐわうと言った方が分かりがいい?」  意味を理解した途端、頬に熱がのぼった。 「好きだから触りたくなるってこと?」 「娯楽だよ。美しいものは好きだけれど、坊の言う好きとは違うだろうね。合意で結ぶ関係だけれど、たった数時間だけの関係は不誠実だと言われればその通りだし、望ましいことではないかもしれないね」  何でもないことのように言われた内容はなかなかに過激で、なんとなく居心地が悪くなる。目を泳がせた澄也の様子に気づいたのか、「坊は私の真似をしたらいけないよ」と釘を刺すように白神様は言った。   「真似したらいけないようなこと、なんでしてるんだ?」  ついつい口を挟む。非難を込めた言葉を受けても悪びれもせず、白神様は嫣然と微笑むだけだった。 「私は退屈な時間が大嫌いなんだ。気持ちのいいことは、退屈を紛らわせるにはちょうどいいんだよ」 「……退屈」  退屈なことは、寂しいことだ。話す相手もおらず、終わらせなければいけない宿題もなく、読む本もない。澄也の子ども時代は、白神様の隣にいるときを除いてずっとそんなものだった。周囲が楽しそうにしている中、ひとり退屈な思いを抱える寂しさを、澄也はよく知っている。 「俺じゃ白神様の役には立てない? 退屈なんて……寂しい思いなんて、させないよ」  別に恋人になりたいわけではない。ただ役に立ちたいと思っただけだった。けれど、澄也の言葉の何が面白いのか、白神様は軽く目を見開くと、袖で口元を隠して小さく笑い始める。 「坊は変わらないねえ。いくつになっても同じことばかり言う。けれど、手を出すならもう少し歳を重ねた人間を選ぶねえ。お前を相手にするのもそれはそれで面白そうではあるけれど、そこまで飢えていないよ」 「手? ……えっ!」  思ってもいなかった方向に話が飛んで、澄也は慌てて制止をかけた。 「ちがうって、そういうんじゃなくて、俺はただ――!」  真っ赤な顔でぶんぶんと手を振る澄也を見て、とうとう白神様は声を上げて笑い出した。

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