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第27話 これは恋かと問いかける⑤

 澄也は咄嗟にひまりを庇うように前に出る。 「なんだよ、スミヤ」 「そっちが何なんだ。健」  きっと睨みつければ、健は一瞬泣きそうな子どものような顔をした。大きな舌打ちをひとつ残して、健は何も言わずに背を向ける。  健が見えなくなったのを確かめて、ひまりは静かに口を開いた。 「健は相変わらずだね。すぐ怒る」 「うん。なんであいつ、いつもああいう顔するのかな」 「ああいう顔?」 「なんか、何か言いたそうな顔って言うのかな。言いたいことがあるなら言えばいいのに」 「みんながみんなそういうことができるわけじゃないよ。言う勇気が出ないときだってあるし、自分でも何が言いたいのか分からなくなっちゃって、察してほしくなるときだって、あるでしょう?」  ひまりの言葉は、澄也の胸にすとんと落ちた。たしかにそうだ。偉そうなことを言ったけれど、澄也だって白神様に対して同じことをしている。何かをしてほしいのに、自分が何を求めているのか分からなくて、見ることしかできない。 「……そうだな。言えないことだってある」 「澄也のそれは、頭の中から離れないひとのこと?」  ひまりはじっと澄也を見上げていた。好奇心というには、あまり興味のなさそうな顔だった。 「あのひとは俺のこと、子どもだとしか見てくれないから。もどかしいって思うこともあるんだ。気が散るからどうにかしたいんだけど、結局、本人に言っても解決しなかった」 「ふうん……」  考え込むようにひまりは呟く。一瞬だけ目を伏せたひまりは、ぱっと笑顔を作ると上目遣いに澄也を見つめた。   「ねえスミヤ。それなら私と付き合ってみない? 健が言ってた通りに、さ」 「え?」    ひまりが何を考えているのか分からない。軽い口調とは裏腹にどこか思いつめた顔をした彼女は、何かを訴えかけるように、澄也をじっと見つめていた。澄也の手とも白神様の手ともちがう、柔らかく小さな手が、澄也の手にそっと重ねられる。 「好きでもないのに付き合うのは良くないと思う」 「付き合ってから好きになることだってあるよ」 「ひまりは俺が好きなのか?」 「ううん、別に。だから、お互いお試しでどう? どっちも好きじゃないんだから、ごっこ遊びと一緒だよ。お互い分かってそうするなら、不誠実ってことはないでしょう」 「理由がない」 「あるよ。だって、叶わない恋はつらいでしょう。忘れられるかもしれないよ」  首を傾げたひまりの髪が、さらりと揺れる。つらい気持ちを忘れたいのは澄也かひまりか、どちらのことを言っているのだろう。懇願するように見上げてくる表情が痛々しいと思ったときには、澄也はぎこちなく頷いていた。

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