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第67話 朝まで一緒にいたかった⑭
学校に足を運ぶなり、澄也は職員室に直行した。顔見知りの教師の前で、澄也は深く頭を下げる。ぽりぽりと頭をかきながら、困り顔の教師は澄也の顔を上げさせようとするけれど、澄也は頑なに「お願いします」と言い続けた。
やがて、根負けしたように教師は深いため息をついた。
「あのね、さっきも言った通りだよ。昨日今日で事件なんて何も起きていないよ。そもそも厄介な事件なら退魔師のところに話が行くし、そうじゃなかったとしても学生に見せられるものは限られているんだ」
「どんなことでもいいんです。お願いします。教えてください」
「卒業試験の課題と巡回用の情報くらいなら見せられるけど、それ以外は本当になにもないよ。……何があったか知らないけど、困りごとなら相談に乗るよ。若いうちは自分でなんとかしないとって思うかもしれないけど、ひとりでどうこうするより、誰かを頼った方が早いことなんていくらでもあるんだ。それは別に恥ずかしいことじゃないんだからね」
突然押しかけた澄也にも親身になってくれる教師は、きっと善人なのだろう。けれど、話したところで理解してもらえるとは思わなかった。それ以上何も言おうとしない澄也を見て、困ったように教師は頭をゆるく振る。
「……あまり思い詰めずにね」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げた澄也は、渡されたバインダーにかじりつくように目を通しはじめた。何のために何を知りたいのかさえ分からぬまま、淡々と文字列に視線を走らせていく。
読み始めて幾分もしないうちに、空気を割くような悲鳴が澄也の耳を叩いた。
校舎の外からにわかに騒がしい声が聞こえてくる。周りの教師が立ち上がり、慌てたように窓の外に身を乗り出した。やがて、遠くに目を凝らしていたひとりが険しい声を上げる。
「魔物だ。ここらじゃ見ないようなでかい魔物が一体と、小物の群れが校庭にいる。なんであんなに沸いてるんだか知らないけど……中に入って来てるな」
「生徒たちは? 補習に来てる子たちが上にいる。避難させないと」
「近場の退魔師にも連絡を! 私たちだけでは手に負えない!」
慌ただしく周りの教師たちが動き出す。バインダーを見せてくれた教師もまた、焦ったように澄也の背を押した。
「ここは危険だ。君も早く逃げて――」
教師の言葉が終わるよりも早く、背後で何かが弾けるような音がした。
『み つ け た』
振り向くと同時に、ぎょろりと動く大きな目玉と目が合った。
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