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第89話 手の鳴る方へ⑰
後孔に含んだ指が動くたび、息が引きつる。動き辛かったのか、丁寧に膝の上に抱え直されると同時に、指が深い場所を抉っていった。目の前にちかちかと星が散る。
「は……ぁっ」
しがみついた背に爪を立てれば、労わるように唇が合わせられる。丁寧で、甘ったるくて、すべて知りたいとばかりにくまなく体に触れるやり方は、澄也らしいと言えば澄也らしい。
「痛くない?」
「気持ちが、いいよ。……ぁ、くっ」
「よかった」
そして、憎らしいくらいに覚えがよかった。触りたいというから好きにさせていれば、いい場所ばかりを早々に学習したらしい。はじめのぎこちなかった手つきはどこへ消えたのか、澄也の指先が動くたび、緩やかな快楽が引き出されては積もっていく。
「きれい。髪も、肌も、目も……どうしてこんなにきれいなんだろう。ここも、こんなに柔らかい」
「もういい、と……言っただろうに」
腿に当たる熱く猛ったものを握り込み、十分すぎるほどほぐされた場所に押し当てる。息を呑んだ澄也が何かを言う前に唇を吸えば、我慢できなくなったように澄也は白鬼の腰を掴んだ。指とは比較にならない質量のものが、体内に乱暴に入り込んでくる。一気に引き下ろされる余裕のない動作に、ぞくぞくと全身に鳥肌が立った。
「っ、ごめん……!」
顔を歪めて息を堪える澄也の表情と、欲そのものに染まった鋭い瞳を目にした瞬間、どうしようもなく興奮した。知らず背が反り、上ずった嬌声が喉からこぼれ落ちる。
衝動を逃がそうとでもいうのか、大きく息をついている澄也の腰に片足を回して引き寄せる。そのまま腰を揺らせば、切羽詰まった様子で澄也は白鬼を抱く手に力を込めた。
「待って、くれって……!」
「待たないよ。は、んっ……気持ちいい、だろう? 余計な気を回すな。いらない理性なんて、捨ててしまえ」
「……くそっ」
舌打ちが聞こえると同時に、繋がったまま床へと押し倒された。余裕なく打ちつけられる腰に、愉悦を感じながら声を上げる。痛みさえ感じるほど勢い任せな動作は、白鬼相手でなければ落第点もいいところだ。
もっとも、澄也が己以外を相手にする機会など、この先一度たりともあり得ないだろうが。
不慣れながらも懸命に体を貪る相手を労わるようにかき抱く。ゆっくりと髪を撫でてやれば、荒い息とともに体内に熱いものが吐き出されるのが分かった。
「あ、ぁ……ふ、あははっ」
流れ込んでくる精気にうっとりと体を震わせながら、白鬼も澄也に合わせるように達していた。忙しない呼吸に耳を傾けながら、虚脱感に意識を任せる。
ぼんやりと深い快楽の余韻に浸っていたそのとき、不意に澄也が指を伸ばしてくる気配がした。苦笑にも似た表情を浮かべながら、澄也は白鬼の口元を拭っていく。
「ぁ……?」
「よだれ」
笑い混じりの嬉しそうな声に導かれるように、焦点が合う。
――まずい、と柄にもなく焦った。
目の前にある汗ばんだ肌が、艶々と輝いて見えた。これ以上なく近くで感じる香りが、飢餓感を湧きたてて仕方がない。牙が疼く。腹が鳴る。拭われたばかりだというのに唾液が湧き上がってきて、度し難いほど強い衝動に、白鬼は唸り声を上げた。
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