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エピローグ 今日も明日も一緒に①

 遮光レンズ越しでも真夏の陽光は目に沁みる。ひとりで道を歩くのは随分と久しぶりのような気がした。いつもであればユキがいるけれど、出がけに青鬼と白鬼と何やら言い争っていたので置いて来た。寺からそう遠くない場所だから、そのうち追いついてくるだろう。    地元に最近できたというカフェを探して歩くけれど、一向にそれらしい建物は見つからない。ひまりいわく蔵カフェというものらしいから、見た目は普通の家屋と変わらないのだろう。困り果てた澄也が足を止めたそのとき、塀の向こう側から聞き覚えのある声が聞こえてきた。 「花、花ってこんなん前と何も変わってねえだろうが。毎度毎度呼びつけるなよ」 「いいじゃん、どうせこっちにちょくちょく帰ってきてるんだから。ほら、色が違うでしょ。ちゃんと見てよ」 「お前の旦那に見せてりゃいいだろ」 「一番に見せてますー! 大体こうでもしなかったら澄也も健もちっとも顔を見せないじゃない。退魔師なんて危ない仕事してるんだから、会えるときに会いに来てよ。友だちがいがないなあ、もう」    幼なじみたちは、今日も元気に言葉を投げ合っているらしい。ドアベル代わりの風鈴の音を聞きながら門をくぐり、澄也は「ごめん、遅れた」と声を掛けた。早い時間だからか、テラス席は貸し切り状態で、ひまりと健以外に客はいない。  汗を拭っていると、ひまりが苦笑しながら水の入ったグラスを差し出してくれた。 「また魔物に絡まれてたの?」 「いや、今日は絡まれなかった。迷っただけ」    じとりと澄也を見て、健は呆れたように頬を引きつらせる。   「なんで地元で迷うんだよ。寺から徒歩で来られる場所だぞ」 「あんまりこの辺には来ないから」 「この辺どころか仕事以外でろくに外に出てねえだろうが。ちったあ外に出て日を浴びろ。そんなんだからいつ会ったって辛気臭い顔して――……いや、してねえな。なんか澄也、つやつやしてねえ?」  喧嘩でも売られているのかと思うほど険しい目つきで、健がサングラス越しに澄也の目を覗き込んでくる。健の言葉に続くように、ひまりもぐっと身を乗り出した。 「本当だ。肌、きれいになった? 探してたひとが見つかったから、やっと伸び伸びできるようになったのかな」 「たかだか数週間でそんなに変わるわけあるか。そのサングラス、青嵐さんのと同じだろ。今度は何隠してやがる」 「いや、別に隠してるってわけじゃ――」 「しのごの言わずに外して見せろ」  仕事柄か、さすがに健は勘が鋭い。好奇心に満ちたひまりの視線と、責めるような健の視線の圧力に負けて、しぶしぶと澄也はサングラスを外した。  伏せていた視線を上げると同時に、小さく息を呑む音が聞こえてくる。

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