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第12話 最後のスコティッシュフォールド③
自分がミナミに欲情していると知られたくなかった
だが、ベルトの金具はカチャカチャと鳴るし、チャックを下ろす音は響くし、スラックスの衣擦れの音も気になった
もしかしたら、もうバレているかもしれない
その時ミナミが、顔を紅潮させながら「長谷川さん…」と呟いた
長谷川は自分の手を止めることができなかった
初めてオナニーをした時みたいに、力加減など気にせずガムシャラにしごいた
「くっ…」
声が漏れた
決定的だ
きっとバレた
だが、ミナミは長谷川から言われたことを忠実に守り、目をつむったまま
「オレもいじっていい?」
と聞いた
「前と後ろ…長谷川さんはどっちが好み?」
「…っ…後ろ」
「エッチだね」
ミナミは、目をつむったまま手探りでクリームのチューブをつかむと自分の指につけた
「長谷川さん、よく見ててね」
ミナミはイメージフェラをしている方の肘で体を支えると、口と手を動かすのは止めずに、反対の手で後ろの穴をいじった
自分の気持ちいい場所はきちんとわかっている
こんな仕事をするのだから、気持ちよくなければ続けられない
一番長い中指を挿れ、腹側の粘膜をこすった
「アッ…」
圧迫感と身をよじりたくなるほどの快感が身体中に広がった
長谷川が荒い息づかいで、
「お前、女に、フラれたっ…て言ってた、から、てっきり、ノンケだと思ってたけ、ど、後ろ、もずいぶん開発されて…んだな。自分で?それとも…他の男?」
「気になる?」
ミナミの手と口のピストンが早くなった
「べ…つに…」
ズズ
じゅるじゅる
ちゅぱ
ミナミが、精液をすする音がした
その音を聞いた瞬間、長谷川は本当に自分の性器が吸われているかのような感覚を感じ、一気に絶頂に達した
ミナミは1時間ガラスにへばりついたまま、長谷川のためにひたすらオナニーをした
こんなに疲れるプレイは初めてだった
「ミナミさん、最後のプレイ、お疲れ様です」
控え室には勤務表に名前がのっていた【マンチカン】のアヤメと【シャム】のコタローがいた
ミナミは返事もそこそこにソファに横たわった
「マジで疲れた…」
「最後のお客さん、そんなに激しかったですか?」
アヤメが聞いた
「激しいと言うか…」
その時、控え室にマサトが飛び込んできた
「ミナミ!お前何したの?」
「は?」
「最後の客、【エーイチ】さん!『スコティッシュフォールドに餞別』っつってポンと30万置いていったよ」
「は?」
疲れなど、一気に吹っ飛んだ
※※※※※※※※※※※
マサトが店を閉めるのを待って、ミナミ、アヤメ、コノエ、コタロー、そして休みなのに集まってくれた九 やタキたちと共に行きつけの居酒屋に向かった
「だから!エーイチさんじゃなくて、『H 』って言ったらしいよ。俺、面白すぎてプレイ中に吹いちゃったからね」
今夜は、もらった30万でミナミがおごることにした
送別会の主役が出すのはおかしいとタキは言ったが、ミナミは自分から彼らへのお礼だからと言って譲らなかった
「で、そのHさんはミナミさんが働いてるバーのオーナーさんだったんですか?」
タキが聞いた
「そ」
「うわ…気まずくないですか?」
「それはもう…」
明日からバーの仕事の傍らカフェの開店準備も控えている
長谷川と接する機会はより増えるだろう
そんな関係性なのに、一体何のために店に来たのか問いただすのも野暮な気がした
「やっぱり、オーナーの知り合いのハセさんって、長谷川さんのことなのかな?」
マサトがジョッキの底にたまった泡をすすって言った
「マサトさんも会ったことないの?」
「実は会ったことないんだ。今度うちに入った【ソマリ】のコ、かなりヤンデレなんだけどさ、ハセさんの紹介だからってのはオーナーから言われただけだし」
「オレらなんてうちのオーナーの顔すら知らねーですけど、どんな人なんですか?」
九が枝豆を剥きながら聞いた
皆がマサトの答えを待った
「あー…普通の人だよ。やり手ではあると思うけど…」
「歳は?かっこいい?!」
バイでフリーの【三毛】のコノエは興味津々のようだ
「歳?歳はー…40?くらい?長谷川さんと同じくらいだよ」
マサトがチラリとミナミを見た
ミナミは首を横に振った
「顔はー…まあかっこいい方なんだろうな」
マサトの歯切れが悪かったため、コノエはそれ以上追求するのをやめた
マサトは空になったジョッキの底に泡が落ちていくのを眺めた
オーナーの正体にも関わることだから知らないフリをしたが、マサトは長谷川を知っていた
長谷川はプッシールーム2号店の開業にも一枚噛んでいた人物だ
そして、マサトの復讐の相手でもある
5年の間、プッシールームの雇われ店長をしながら、長谷川への復讐の機会をうかがっていた
そしてついにその時が訪れた
長谷川がミナミの最後の客として現れたことにより確信を得た
あとはオーナーを焚き付けるだけで、長谷川はいまの地位を失うはずだ
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