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第13話 マンチカンとシャム①

【マンチカン】のアヤメと【シャム】のコタローは、プッシールーム2号店唯一のカップルである 元々コタローが勤めていたところにアヤメが入ってきて出会ったため、パートナーができた今でも二人ともずるずると仕事を続けている 「オレなら、すぐ辞めさせるし辞めるけどねー」 ミナミが勤めるバーで、アヤメは一緒に来た【アメショ】の九に言われた プッシールームを辞めたミナミは、昼間は新しくオープンするカフェの開店準備、夜はバーでフルタイム勤務をしていた 「コタには他の仕事は無理ですから、だったらオレが近くにいて見張ってる方がいいです。プッシールーム(あそこ)なら、他の店みたいに触られたりしない分、安全だし…」 「わからないでもないけどさ、お前はまともな会社(とこ)に就職するんだろ?」 アヤメは21歳、有名私大の3年生だ いままさに(プッシールーム)で勤務中のコタローは24歳で、ミナミが辞めた後、(ルーム)で九に次ぐベテランになったが、ミナミはおろか、他のメンバーともろくに話をした者はいないほど無口だった 「はい」 「それでコタローは?お前が仕事始めたらすれ違っちゃうわけじゃん。怖くないの?」 怖くないと言えば嘘になる だから自分の仕事が決まったら同棲を申し込もうと思っていた 「お前が養うとかは考えるなよ?」 カウンターからミナミが二人にサービスのドリンクを出してくれた 「何でわかるんスか?」 ミナミは客が帰った後のカウンターを片付けながら、 「お前みたいな正義感の強い俺様なタチが考えそうなことだからだよ」 と言った ※※※※※※※※※※※ アヤメとコタローの出会いは、アヤメの面接の日だった アヤメは苦学生だ 母一人子一人 家から通える国立大学を希望していたが全部落ち、受かったのは母が滑り止めにと願書を出していた私大だけだった アヤメはその瞬間進学をあきらめた 浪人するなら働きたい そう母親に申し出ると 『いまはよくても、大卒と高卒では生涯年収が違ってくる』 とデータ付きで説得された だからと言って母にも先立つものなどなく、入学金は払えたが、授業料その他もろもろは奨学金を借りることにした だが奨学金が将来大きな負担となることも知っている だったら時間のある学生のうちに返済しておきたいと実入りのいいバイトを探していたところ、飲み屋のバイトで知り合ったマサトにプッシールームに誘われた ※※※※※※※※※※※ その日アヤメは、バイト先の居酒屋で知り合ったマサトが店長を務めているという風俗店の面接に呼ばれていた 指定されたのは花園神社に程近い雑居ビルの3階 想像よりはきれいなビルでホッとしたが、ビルに掲げられた店子の看板はホストクラブやキャバクラ、ファッションヘルスなど軒並み水商売のものだった 開店の15分前という居酒屋バイトからしたらハラハラするような時間から面接が始まった 「アヤメくんの人柄は知ってるから面接っつってもそっちからの質問受ける感じになると思うけど、プレイ内容でわからないことある?」 「とりあえず客の希望を聞きながらオナニーすればいいんですよね?」 大まかな話は聞いていた 客からの挿入なし、接触なし、酒の提供なし プレイのあとは毎回30分の休憩 勤務時間は大学生の場合夜7時から11時半が基本で、人手が足りない場合は2時まで勤務することもある 安いが一応日単位の基本給があり、そこに客が入った分と指名料、オプション分が上乗せされる 想像していたよりはるかにクリーンで、これで居酒屋の4倍以上稼げるなら、儲けものだと思った

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