14 / 161

第14話 マンチカンとシャム②

「あ、そろそろ開店だ。ごめん、あとで実際にやってみてもらってもいい?基本的な接客だけは実地で指導した方がわかりやすいから」 マサトが高そうな時計を見て立ち上がった やはりこういった店の店長は儲かるのだろうか 「指導はマサトさんがやるんですか?」 アヤメは部屋を出ていくマサトの背中に呼び掛けた 「俺、こう見えても忙しいのよ。客入ってないプレイヤーに見てもらうから、先にあっちのプレイルームに入ってて。【マンチカン】って書いてあるとこね」 その時、すでに【マンチカン】のプレイルームを指定されたのは、偶然なのか必然なのかはわからない 細い廊下を進むと、コジャレた書体で【Munchkin】と書かれた部屋があった カーテンで仕切られた狭い入口から入ると、キングサイズの大きなマットレスが一枚、部屋一杯に置かれていた その向こうに1枚ガラスで仕切られた部屋があり、座り心地のよさそうなリクライニングチェアがあった マットレスの枕元の棚には、見たことはあるがどうやって使うのかわからないようなアダルトグッズやコンドームやワックスが置かれていた 脇には小さなゴミ箱がひとつ 掃除が行き届いているのが手に取るようにわかる清潔な部屋で、アヤメはホッとした しばらく立ったまま待っていると、ガラスの向こうの部屋のドアが開き、顔の小さい細身で小柄な少年が入ってきた 髪の毛はアッシュグレーの短髪 肌は血管が透けるて見えるくらい白く、瞳はビー玉が入っているのかと思うほど美しかった それがコタローとの出会いだった 「アルビノ…」 思わず口から出た単語だったが、実際は本物のアルビノ症状とは程遠かった ただ、実際に見たことのないアヤメにとっては、コタローの色の白さは目を引く物だったし、きっとそう勘違いされることもあったのだろうと思う 部屋に入ってからもコタローは、特に何を言うでもなくボーッと突っ立っていた 「あのー!」 まだスピーカーの存在を知らなかったアヤメは、ガラスの向こうに聞こえるように声を張り上げた するとコタロー側の扉からマサトが顔を出して 「コタ!これも仕事のうちなんだから、ちゃんと指導してよ」 と言い捨てるとすぐに立ち去った コタローは自分の方のスピーカーとマイクの電源を入れてから、無言でアヤメを見つめた 「あ」 アヤメも自分側のスピーカーとマイクの電源を入れた コタローがマイクに顔を近づけた 「その都度直してくから…とりあえず…」 ぼそぼそとした聞き取りにくい声だった 「とりあえず、と言われても…」 アヤメは困惑した しかし、こういうタイプにあれこれ求めてもどうせ返ってきやしない アヤメはとりあえず自分がイメージしていたやり方でやってみようと上着を脱いだ

ともだちにシェアしよう!