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第17話 マンチカンとシャム④
実地研修が終わり、声をかけようと控え室から受付を覗くとマサトは接客中だった
アヤメが話しかけるタイミングを伺っていると、ドアの隙間から客と目があった
「あ!かわいいコいるじゃん!新人?」
「面接に来ただけのコなんで、ダメですよ」
「ねー、本当にいっぱい?スコティッシュは諦めるけど、アメショも埋まってる?」
「マノさんの好みのコは全部埋まってますってー」
マサトの口調は柔らかいが、顔は無表情で客と目を合わそうととしない
店側からこんな反応をされたら、アヤメだったら心が折れるところだが、マノと呼ばれた客はしつこく食い下がった
マノはチラチラとアヤメを見ながら、何やらマサトに耳打ちした
マサトは心底イヤそうな顔でマノを振り払った
まずい雰囲気を察知してアヤメがドアを閉めようとすると、そのドアをコタローが支えた
受付の後ろにある控え室の入口は狭い
その狭い入口の、アヤメの息がかかるかかからないかのところをコタローが通りすぎていった
マノとマサトがコタローに気がついて顔を上げた
コタローはマノに向かって、
「僕はタイプじゃないですか?」
と聞いた
マノはコタローの全身を舐めるように見て、「俺はいいけど、いいの?」とマサトに聞いた
マサトはコタローに向かってうなずき、
「マノさんが毛色違いでもいいなら。コタくんもいいプレイするからオススメですよ」
コロッと態度を変えた
コタローは自ら受付に立って、
「お好みの衣装はありますか?」
とマノにコスチュームのメニューを見せた
※※※※※※※※※※※
コタローがマノの指定したDKコスに着替えてプレイルームに入ると、その後ろ姿を見たマサトが、
「コタくん、しびれる…」
と言った
いま控え室にはアヤメしかいない
マサトの呟きはアヤメに聞かせるためのものだろう
それなのにマサトは、いまアヤメに気づいたかのように、
「あ、どうだった?何か直された?」
と聞いた
「もう少し早くイけって言われました」
「コタ~」
マサトは頭を抱えて受付カウンターに突っ伏した
「でも、もっと根底にあるものを教えてもらえた気がします」
マサトの表情が緩んだ
「…コタくんは、まあ、色々あるコだけど、すごくいいコだよ。無口だし、無愛想だけど」
「わかります」
「マノさんもきっと満足して出てくると思うよ」
30分後、マサトが言った通りマノはニヤニヤしながら部屋を出てきた
「マサトくん、あのコ当たりだったー!次はちゃんと指名予約とってくるね」
先ほどまで受付でごねていた客とは思えない変わりようだった
何のオプションをつけたのか、会計は2万円
アヤメが受付とバックヤードの両方が見える場所に座っていると、シャムの部屋から出てくるコタローが目に入った
コタローは控え室とは反対の方に歩いていった
アヤメはコタローに話しかけたい衝動にかられたが、手前の部屋から別のプレイヤーが出てきてコタローの姿を隠してしまったので諦めた
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