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第20話 マンチカンとシャム⑦
コタローの家は、アヤメの家とは反対方面だった
新宿から乗り換えなしの15分
都心に近いが、下町風情が残る賑やかな繁華街を通りすぎて、10分ほど歩いたところにコタローのアパートはあった
古いコーポ風の建物だったが一人暮らしにしては広かった
部屋に入るとすぐに台所があり、右手の引き戸を開けると2間続きの部屋があった
手前はパソコンデスクとこたつテーブル、ベッドは奥の部屋にあった
電気は今時珍しい紐を引っ張るタイプ
蛍光灯でないだけマシなのかもしれない
コタローは電気をつけて奥の部屋の引き戸を閉めた
てっきりコタローは夜の仕事 だけかと思ったが、パソコンの横に業務用のプリンターがあり、何かしら仕事をしていることがわかった
コタローがどんなつもりで泊めてくれるのか、アヤメには計りかねた
時計を見た瞬間、どっと疲れが襲ってきた
「つ…かれたー」
コタローに勧められる前に畳に座り込んでしまった
「ごめんなさい。寝かせてください」
アヤメは上着を布団代わりに掛けて畳の上に横になって、そのまま寝押ししてしまった
朝方5時過ぎにキーボードを叩く音で目が覚めた
ニュースアプリを開くと、路線が始発から運行を始めたと書いてあった
アヤメはのそのそと起き上がった
カーテンの隙間から見える外はまだ日の出前で暗かった
そんななか、パソコンのモニターのブルーライトに照らされたコタローの横顔が死人のように見えて、思わず「ぎゃっ!」と叫んだ
その声に驚いたコタローも「ぎゃっ!」と叫んだ
「あ、ごめん」
コタローが恐る恐る振り向いた
その顔が想像以上に蒼白でひきつっていたのが面白くて、アヤメは吹き出した
「ごめんなさい。幽霊かと思って」
アヤメは立ち上がってコタローに近づいた
「仕事ですか?」
モニターを一目見て驚いた
そこには実物と間違えてしまいそうなほど、鮮明なVRアニメの制作画面が表示されていた
「え?これ、コタローさんが作ったの?!」
コタローがウインドウを閉じようとマウスを動かした
アヤメはコタローの手を慌てて止めた
「すげー…」
それは、山あいに佇む古びた木造家屋のVRアニメだった
「ゲームでも作ってるんですか?」
一瞬、ホラーゲームかと思ったが、それにしては明るくてどこか懐かしい色使いだ
ふとデスクの上を見ると、VRアニメと同じ民家の写真が置いてあった
外観だけじゃなく内部の写真もある
「これをモデルにして作ったんですか?」
コタローがマウスから手を離してうなずいた
「仕事だから…」
コタローがメールボックスを開いた
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