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第23話 マンチカンとシャム⑩
駅のコンコースで、アヤメはコタローの手を引っ張って立ち止まった
「もう気づいているかも知れませんが、俺、コタローさんのことが好きです」
新宿駅の喧騒に後押しされる形で切り出した
我ながら色気も面白味もない告白だと思った
それでもこのまま帰るのはイヤだった
「俺は吉祥寺なんで中央線です」
自分でも何を言いたいのかわからなかった
でも今夜のうちに、まだできることがあるはずだという思いがこういう形で出てきた
「コタローさんは、埼京線…」
伝われ、伝われ
たとえいま伝わらなかったとしても、帰ってから反芻してくれればそれでもいい
アヤメはコタローの手を強く握りしめた
待ち合わせの時に、手を引っ張って祭り会場に向かったときとは明らかに違う熱が、その手にはこもっていた
ぐいっ
コタローに引っ張られ、アヤメは前につんのめった
そんなことは気にも止めず、コタローはぐいぐいとアヤメを引っ張っていく
「コタローさん…」
コタローは広い駅構内を迷うことなく、埼京線が入る3、4番ホームに向かった
その日、アヤメはコタローを抱いた
アヤメは男性とヤるのは初めてだったが、プッシールームで得た知識が役に立った
コタローの方もスムーズにアヤメを受け入れた
「コタローさん、好きです」
アヤメが囁くと、コタローは荒い息を吐きながらアヤメを見つめて、ニコリと笑った
※※※※※※※※※※※
(やばかった…)
大学のカフェテリアで、アヤメは昨夜のことを思い出してニヤニヤしていた
(キュンキュンがすごい)
アヤメはシているときのコタローの顔を思い出しては、勃起しそうになるのをなんとかこらえていた
こういうことに関して、自分はわりと禁欲的な方だと思っていたから正直驚いた
「アヤメ来てたの?2限いなかったから休みだと思ってた」
授業を終えた友人たちがカフェテリアに集まってきた
いつもの光景だった
数人の男友達と、2、3人の女友達
学校の外で遊ぶことはないが、閉鎖された大学という社会のなかでは必要な存在だ
「何ニヤニヤして…あ!」
男友達の一人がアヤメの顔を指さした
「お前そういう…うわー」
他の友人たちの顔も次第に意味深な笑みに変わっていった
「なんだよ…」
一人訳もわからず不安に思っていると、
「アヤメくん、ココ」
女の子の一人が、首筋を指差しながら鏡を貸してくれた
「げっ」
首筋にキスマークがついていた
「それで2限サボったのか。え?昨日?昨日なの?」
「アヤメくん、彼女できたの?」
皆が口々に詰め寄った
アヤメは首筋についたキスマークを指でなぞった
「でもさ、そういうのつける彼女って、結構束縛強そう」
もう1人の女の子が恋愛分析のエキスパート然として言った
「え、やっぱりそういうもん?」
よせばいいのに、男友達の一人がその子の話題に食いついた
「だってさ、こうやって『昨日ヤりました』みたいなの、みんなにバレちゃうんだよ?私のモノだって牽制してるでしょ?マーキングみたいなもん」
言ってることはわかるが、それをアヤメ の前で言うのはどうかと思った
この女の子とは二人きりでしっかり話したことはないが、そういう子なのだと思えばスルーできる
束縛ととらえるかかわいい行動ととらえるかはアヤメの自由で、アヤメにとってコタローがつけてくれたのなら、たとえマーキングだとしても嬉しかった
それが顔に出て思わずヘラッとなった
「なんで嬉しそうなんだよ…」
「え、だって、普段そういうのしなさそうな子なんだもん。そういう子にされるのって嬉しくない?」
「なんだ、ツンデレさんか」
「そういうのでもないんだけど、まあ無口だね」
「へー。間が持たなくなったりしないの?」
「反応も表情もあるから気になんないかな。何よりかわいい」
アヤメの発言に周りからひやかしの声が上がった
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