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第33話 アメショとのら猫④
編集部に着くとすぐに会議室に通された
会議室には窓を背にしてトワが座っていた
トワは九の姿を見るやいなや泣きそうな顔で腰を上げた
「九…」
九と一緒に入ってきた編集長と副編集長は、並んでプロジェクターの前に、読モ担当のスタッフは九の隣に座った
「何で呼ばれたか分かってると思うけど、トゥイッターの件、どういう経緯か説明して」
編集長の口調は鋭かったが、怒っているわけではなさそうだった
「働いてるのは本当です。まさか盗撮されてるとは思ってませんでしたが」
九は真っ直ぐに淀みなく答えた
ちょっと前からマサトや他のプレイヤーから何度も着信がある
心配しているのだろう
「俺が客として行ったのも本当です」
トワもためらうことなく答えた
九が真実を告げているのに、自分だけ嘘をつくようなカッコ悪いことはできない
二人から裏が取れてしまった編集長と副編集は互いに顔を見合せた
副編集長が「それは何で?トワ君は九ちゃんが働いてると知ってて行ったの?」
「はい」
「何で?」
「好きだからです。九のことが」
あまりに明け透けな告白に九以外の3人は唖然とした
やがて編集長が咳払いでその雰囲気を一掃した
「じゃあ、このアカウントに見覚えある?」
編集長がスマホの画面をプロジェクターに映し出した
九の動画を最初に投稿したアカウントだった
IDは最初に振り分けられた適当なもので、名前も【プッシー2号】とこの動画を拡散させるためだけに作られた捨てアカなのは明らかだった
九が首を横に振った
ここまで知られたらもう隠しても意味がない
トワは知ってることを全て話すことにした
【Joli 】のモデルは『九と共倒れよりはいい』と言っていたが、共倒れするのはあいつだと思った
「これ、多分【Joli 】のモデルです。タカシとかいう…」
男の名前は今朝、ネットで調べて初めて知った
こんなことをすれば自分の立場も悪くなるとは思わなかったのだろうか
それとも、そもそも目的が変わってきたのかトワにはわからなかった
「トワは何か知ってるのか?」
編集長が身を乗り出して聞いた
「俺がこの店に行った写真と九の動画で脅されました。それで俺はそいつの要求を聞いて、バラさない代わりに…」
「引退か…」
編集長が椅子の背もたれに寄りかかってため息をついた
「引退って?」
九の声が聞こえた
トワは顔を上げることができなかった
九がどんな顔で自分を見ているのか知るのが怖かった
タカシが動画を持っていると知っていて止められなかったー
そもそも、自分がプッシールームに行きさえしなければー
謝っても謝りきれないと思った
「九にも言ってなかったのか」
編集長があきれたような表情でトワを見た
「言えなかったので…」
「そりゃ、そうよね」
副編集長が同情の視線をトワと九に走らせた
「それでそのタカシってやつはどんなやつなんだ?」
編集長が読モ担当に促した
「【Joli 】の読モです。【Joli 】での人気はまあまあかな。トワくんの引退を受けて所属する読モの子達のオーディションが急遽あったんだけど、タカシくんは落ちてますね」
担当者が手帳を繰りながら言った
「なるほどな。大体の状況は把握した。一種のリベンジポルノってわけか」
編集長が腕組みをして唸った
「そのタカシってやつは、トワを脅して引退させれば自分が後釜に座れると思ってたんだろうな。とんだお花畑野郎だな」
編集長が鼻で笑った
その時、会議室のドアををノックする音が聞こえた
編集長がドア越しに「何?いま、緊急MT中!」と声を張り上げた
しかし相手も「その件でお知らせしたいことがあって」と食い下がった
担当者がドアを開けると、タブレット端末を持った男性スタッフが編集長の元に駆け寄った
タブレットを見た編集長から「へえ~」と声が漏れた
副編集長も横から覗き込み、「ほ~」と声を上げた
「面白い社会実験だな」
編集長がタブレット端末をプロジェクターにつないだ
トワは何が始まるかわからず、不安な気持ちで見守った
【九の店いいな!】
【オナってる九でヌいた】
【九ちゃんもオナニーするんだ】
【誰?】
【雑誌買うわ】
【雑誌おかずにするやつ】
【トワと九ちゃん怪しいと思ってた】
【二人はゲイなの?】
【九なら抱ける】
【わたし女だけど九ちゃんなら抱きたい】
【とりあえずカップルではないことが判明した】
【トワは辞めさせに行ったのかな?】
【なんかエモい】
こんなコメントが拡散した動画に寄せられていた
「悪くない」
タブレットを持ってきたスタッフもうなずいた
「雑誌のコンセプト的にもそれほど困らないのでは?」
副編集長が言った
※※※※※※※※※※※※
九とトワはトゥイッターの個人アカウントで謝罪することとなった
それは、プッシールーム で働いていたことでもなく、プッシールーム に客として行ったことでもなく、動画が拡散されたことで、未成年や何らかの理由で不快に感じた人への謝罪だった
同時に出版社からも騒動に関する謝罪文が発表された
だがその最後の1文が、ただの読モ2人の私生活暴露のネタを社会現象にまで押し上げた
【…尚、弊社所属の二人のモデルにつきましては、弊社からの処分は検討しておりません
引き続き、二人の活躍を温かい目で見守って頂けたら幸いです
鷽 出版
月刊Tout 編集部】
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