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第41話 ロシアンブルーの正体⑦
「最後の勤務はどうでしたか?」
重くならないように明るい声で聞いた
「うん、ほぼ常連だから安定してた。みんなオプションたくさんつけてくれたよ。あ、それから長谷川さんが来た」
リンの箸からチキン南蛮がこぼれ落ちた
「は?」
「だから最後の最後が長谷川さんだったの。偽名で予約してあったけど、面接みたいなもんとか言って。どんなセクハラ面接だよっていうね」
リンの頭の中に、こぼれた牛乳のような白いものが流れ込んできた
頭の中は白いのに、視界が狭まって目の前が真っ暗になった
ただ焦点の合わない小さな穴を通して、ミナミの顔が歪んで見えた
「リン?」
ミナミが箸を持った手をリンの目の前で振った
「え?」
「大丈夫か?」
「はい」
「それでさ、なんと30万、ポンと置いてったの。さすがに怖かったわ」
リンは拳を握りしめた
割り箸がバキッと割れた
「…ソヤロー」
「なんて?」
リンは意を決して顔をあげた
「ミナミさん!」
いまはミナミの顔がくっきりと見える
「もう、長谷川には近づかないでください!」
ミナミはリンの迫力に押されて、箸を動かす手を止めた
だが、すぐに「それはできない」ときっぱりと言った
「なんでですか?カフェのことなら俺が…」
ミナミは真剣な顔で首を横に振った
「そういうんじゃない。俺が決めた俺の将来だ。長谷川さんがプッシールーム に来て俺のオナニー見たからって、何も変わらねーよ」
「でも嫌なんだ!あいつ、自分のことをミナミさんに意識してもらいたいんだ。これからそういう目で見てもらえるように」
ミナミは顔をしかめて、
「考えすぎだって。プッシールームに来る客は、意外とそういうとこ割りきってる客のが多いぞ」
「じゃあミナミさんは、これから長谷川と一緒に働いても、昨日のことを思い出さないと言い切れますか?」
リンの真剣な表情に、冗談や軽口では済まされないと思ったミナミは、リンの目を見てはっきりと「言い切れる」と言った
リンはの迫力に気圧されそうになった
だが、引き下がるわけにはいかない
「その自信はどこから来るんですか?!」
いまはもう、悲痛な叫び声になっていた
このままでは、この流れのままでは、ミナミと長谷川を切り離せないー
リンが絶望しかけた時、ミナミの口から出た言葉は想像の斜め上をいっていて、どちらにしろ絶望することになった
「だって、俺、彼女いるもん」
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