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第64話 三毛④

秋葉原中央改札の雑踏の中、アキラの周りだけ煌めいて見えた フラフラ歩く姿が頼りなくて、すぐに誰かに声をかけられてしまうのではないかと焦ったコノエは「アキラちゃん、ここ」と声を張り上げた アキラはキョロキョロと辺りを見回すと、時計の針で12時から9時くらいまで回ったところでコノエに気がついた 「お待たせしました…」 前髪を整えながら駆け足でやって来たアキラの、小動物みたいな動きを見ていると、思わず顔がほころんでしまう 先日、コノエが初めてメッセージを送るとすぐに返事があった 【土日は課題があってしばらく会えないのですが、平日のバイトの後なら大丈夫です】 コノエはすぐにシフトを確認し、候補日を3日くらい出した そのうち一番直近だったのが今日なのだが、それまでのたった数日がとてつもなく長く感じた 「バイトお疲れ様。なんか食べにいく?」 コノエは神田生まれ神田育ちだ 秋葉原に馴染みがないわけではないが、遊びに来たのなんて高校生以来だ 食事できる場所はいくつか押さえてはいるが、アキラの好みがわからないと案内のしようがない コノエが返事を待っていると、 「あ、それなら行ってみたいところがあるんですけど」 とアキラから提案があった ついていくと、そこは行列ができる人気のラーメン屋だった 「最近できたお店なんですけど、メイドカフェのお客さんが大絶賛してて」 「アキラちゃん、ラーメン好きなの?」 「好きです。コノエさんは?」 「ラーメン嫌いな男なんていないでしょ」 「うんうん!」 アキラが喜びを全身で表して跳び跳ねた 「それにしても見事にヤローばっかだな。アキラちゃん、こういうとこも平気なんだね」 何気ない一言に、アキラが不思議そうにコノエを見た 「ほら、一応初デートなわけだし…」 コノエもコノエなりに、秋葉原近辺の新しいお店や人気の店を調べてはいた いままでの彼女や彼氏からは、そういうことを求められてきていたから だか、いつも心のなかには少なからず、「なんで?」という思いがあった 相手にスマートさを求めるくせに 少しでも理想から外れると文句ばかり そんな付き合いにほとほと嫌気がさしていた 好きな相手なら 好きな相手となら それは相手だけではなく、コノエにも言えることだった 文句を言う相手を許せない自分は、きっと相手のことが好きじゃないのだろうというロジック でもその前に、コノエが決めたことに不満を言ってくる相手こそがコノエのことをそもそもそんなに好きではないのではないかと言う疑念 でもどんなにうちひしがれても、恋をするとそんなことはすぐに忘れてしまう 今度こそ 今度こそ そう思いながらここまで来た アキラはそんな理想すらどうでもいいと思えるほど、コノエにとって衝撃的な出会いだった 常識的で気遣いのできる普通の子なら御の字で、それに加え、話や趣味が合えば言うことなしだ 誤解されることが多いが、身体の相性は実はコノエはそれほど重視しない だから、ドンと来てほしいと思う 過度な期待はしないから コノエは自分より20センチほど背の低いアキラを見つめた その視線に気づいたアキラがニコリと微笑んで「コノエくんと一緒ならどこでもいいと思ったけど、もっとおしゃれなところのがよかったかなあ?」と言った コノエは首を左右にブンブンと振った ※※※※※※※※※※※ 行列は思ったより早く進み、二人が席についたのは30分後くらいだった 「うますぎ!」 ラーメンは低温調理の鶏チャーシューと、同じ鶏ベースの塩が効いたスープがなんとも滋味のある初めて食べるようなラーメンだった 「なんかスパイス?みたいなのが入ってたよね?」 「八角?」 「それそれ!」 二人は万世橋まで喋りながら歩いてきた 行列に並んでいた30分と、ラーメンが出てくるまでの8分と、食べている間の20分 たったそれだけの間にコノエはアキラと付き合いたいと思っていた そして、できればこのまま… 「アキラちゃん、俺んち神田なんだけど…」 「いいですね!じゃあ神田まで歩きましょうか」 会ったばかりのときより確実に打ち解けて、ハキハキと喋るようになったアキラが大股で歩きだした コノエはその手をつかんで、 「家、誰もいないから、ちょっと寄ってかない?」 と聞いてみた

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