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第71話 ボス猫の影③

昨日、新宿署の馴染みの刑事から呼び出されたリンは、500円払って大木戸門から新宿御苑に入った 新宿門から入れば少しは日本屈指の庭園を拝めるというのに、リンにはそんな考えはハナからない 指定された温室が大木戸門に近いから大木戸門から入っただけだった 刑事は温室の中にいた 桜の季節、来園者は多く、温室にもたくさんの人がいた 「連絡ありがとうございます。曽根さん」 「いいんだ。あんたんとことは長い付き合いだから」 継母とこの刑事がどんな関係にあったのかはしらないが、代替わりした今でも便宜を図ってくれるくらいには親密だったということだ 「言おうか言うまいか迷っていて、結局ギリギリになってしまった」 「何でしょうか?」 曽根はリンを促して温室を出た 春の匂いが四方八方からリンに襲いかかってきた 「ハセが出所する」 「ハセ?誰ですか?」 曽根は目を見開いてリンを見た リンの反応に心底驚いているようだった 「…ハセを知らないのか?」 「同姓の方を知ってはいますが、おそらく別人だと思います」 「どういうことだ?」 曽根はリンの肩をつかんで揺すった リンは義理の叔父の長谷川のこと、長谷川が時々【ハセ】という偽名を使って指示を出してきていたことなどを話した そして、いまは決別し、自分が相続した分は自分の管理下に戻したことも 「長谷川…だと?」 「曽根さんはご存知ないですか?」 「ああ。写真はあるか?」 「あいにく…」 「そうか…」 曽根は口元を押さえて考え込んだ リンは何が何やらわからず、曽根の次の言葉を待った 「とにかく、明日出所してくるのがキミの本当の義理の叔父だ。こちらも長谷川という男のことを調べては見るが、なりすましがどこまで犯罪行為になるかは微妙なところだ。ほころびがあるとしたら、なりすましをしていた理由にあると思うが…」 曽根はリンがうなずいたのを確認して、 「あいつが出てきたら君の身にも危険が及ぶかもしれない。何しろ詐欺と恐喝で実刑くらってるくらいだからな。用心しとけよ」 曽根はそう言って大木戸門から出ていった 曽根もリンと同じで、庭園などにてんで興味がない人種なのだろうとリンは思った リンはその場でマサトに電話をかけた そして、ハセのこととハセの居場所を突き止めるべく、結婚式は欠席する旨を告げた その時、マサトから紹介されたのが秋葉原の何でも屋だった リンは御苑を出ると秋葉原に向かった マサトからはアットの連絡先と名前を聞いていたが、あいにく不在だということで、店主にわけを話した 「そういうことなら僕の方が適任だと思うよ。アットも明日はマサトさんの結婚式に出ることになってるから」 店主はそう言うと、ごそごそと店内中を漁り始めた 「あ、明日は静岡刑務所に朝6時ね」 「はい?」 「場所わかるよね?」 「場所は調べればわかると思いますけど、6時って?」 「そういう手合いは何時頃に出てくるか読めないところあるから。まあ、日にちさえわかってるなら楽勝だよ。明日足取りつかめないと困るでしょ?あ、あった」 店主は何やらボタン電池のようなものを手のひらに握った リンはとりあえず、明朝6時に現地に行けるように、静岡のホテルを予約した ※※※※※※※※※※※※ リンは、その場でマサトに電話をかけた そして、ハセのことと、ハセの居場所を突き止めるべく、結婚式は欠席する旨を告げた その時、マサトから紹介されたのが、秋葉原の何でも屋だった リンは、御苑を出ると秋葉原に向かった マサトからはアットの連絡先と名前を聞いていたが、あいにく不在だということで、店主にわけを話した 「そういうことなら僕の方が適任だと思うよ。アットも明日はマサトさんの結婚式に出ることになってるから」 店主はそう言うと、ごそごそと店内中を漁り始めた 「あ、明日は静岡刑務所に朝6時ね」 「はい?」 「場所わかるよね?」 「場所は調べればわかると思いますけど、6時って?」 「そういう手合いは何時頃に出てくるか読めないところあるから。まあ、日にちさえわかってるなら楽勝だよ。明日足取りつかめないと困るでしょ?あ、あった」 店主は何やらボタン電池のようなものを手のひらに握った リンはとりあえず、明朝6時に現地に行けるように、静岡のホテルを予約した ※※※※※※※※※※※※ 「鮭児(けいじ)くんかな?」 マサトはこんな時なのに、なぜかニヤニヤと笑っている アットは「あいつ…」と言って頭を抱えた 「そうです。万屋鮭児(よろづやけいじ)さん。最初は半信半疑でしたが、お陰で目的は果たせたので…」 ※※※※※※※※※※※※※ 「あ、キミキミ」 朝6時に言われた通りに静岡刑務所の門の前に立っていると、鮭児に声をかけられた まるで、散歩中に落とし物に気づいて声をかけるかのような気楽さだった 「ここじゃ目立つからこっちに来て」 鮭児はリンを近くのコンビニの駐車場に連れていった 「この辺から見てれば十分だよ。まあ、2、3時間もいれば何か動きがあると思うから」 鮭児が言った通り、8時頃に1台の黒い車が少し離れたところに止まった

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