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第76話 ロシアンブルーは眠れない①
目が覚めると、そこは自分の部屋のベッドの上だった
朝の5時、記憶が正しければ、あるいは24時間以上寝ていたのでなければ、3時間ほどで目が覚めたことになる
ショートスリープにもすっかり慣れた
レム睡眠とノンレム睡眠が切り替わる1時間半、長くても3時間ごとに目が覚めてしまう
そこでまたしばらく活動し、また1時間半か3時間寝る
それがリンの日常だった
リンは自分で家に帰った記憶がないことに気付き、昨夜のことを思い出そうとした
アットとラーメンを食べて、家まで歩いて送りたいと言われ、歩いて帰っている途中にー
リンは思い出して手で口元を覆った
アットは、あの時、リンにキスをした
(え?!なんで?!そんな雰囲気だった?!確か曲の歌詞の話をしててー)
御苑の近くに来た頃にはすでに半分寝ぼけた状態だったから、道々の記憶が曖昧だ
(じゃあ、家に運んでくれたのはアットさん…)
リンはご丁寧に充電ケーブルに繋いでくれてあったスマホを手にとった
朝早いのはわかっていたが、どうしてもアットから直接話を聞きたかった
プルルルルル
呼び出しのデジタル音がいつもより長く聞こえる
やっぱり迷惑だろうか
何度も逡巡してはスマホを握りしめた
そのとき寝室のドアが開いた
「どうした?」
「あ…」
そこにはスマホを持ったアットが立っていた
着信中を表す画面に【マサト依頼主】という文字が見えて、リンは吹き出した
「俺、副島臨 っていうんですけど…」
「昨日聞いた」
アットがベッドに近づいてきた
リンはアットの動きを目で追うと、少しずれてアットが座るためのスペースを作った
アットは骨ばっていて長い深爪の指でリンの頬に触れた
親指の腹でプニプニと頬の感触を確かめていく
そして、ずっと考えていたことを口にした
「一目惚れとか、一瞬で恋に落ちたとか、そんなんじゃないんだ」
「わかってます」
アットの指が、リンの頬を遡ってまつげに触れた
「だからといって、同情とか、やけになってるとか、そういうのでもなくて…」
「わかります」
アットはまつげに触れた指を広げ、手のひら全体でリンの後頭部を支えると、そのまま抱き寄せてキスをした
アットとキスをしている間、リンは心臓がギュンギュンして痛かった
よく聞くキュンキュンなんて嘘だ
もっと物理的に痛くて、とんでもなく切ない
ミナミに恋していたときとはまた別種の痛みだ
息ができないくらい激しくキスをされているうちに、リンはいまの自分の状態が恥ずかしく思えて思わずアットを突き飛ばした
「あ…歯とか…風呂とか…喉も乾いたし…」
「あー…俺は気にしないけど、あんたは気になる?」
リンはブンブンと首を縦に振った
※※※※※※※※※※※※
リンがシャワーを浴びる音を聞きながら、アットは我慢できず固くなったモノをしごいた
これが朝勃ちなのかリンに興奮したからかはわからないが、とにかく一度ヌかなければ収まりそうになかった
リンが出てきたときに、アットのモノを見たら引くかもしれない
それは嫌だった
できればスマートでかっこいい大人の男だと思われたい
リンを抱き締めているうちにいきなり欲目が沸いてきたのだ
「…リン…」
アットはまだリンのことを名前で呼んだことがない
名前を口にするだけで、気恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだった
その照れくささと下からの快感が相まってアットは身悶えた
「リン…リン…」
アットの手の動きが速くなっていった
※※※※※※※※※※※
リンは、髪を洗う前にコンタクトレンズを外し忘れたことに気がついた
コンタクトレンズを外すとよく見えなくなるため、いつも脱衣所にメガネを用意しておく
しかし、今日は寝室に起きっぱなしにしてあった
リンはシャワーを一度止めて風呂場を出た。軽く身体を拭いて、着ていた服をもう一度着る
どうせまた風呂に戻るのだから汚くても気にしない
脱衣所を出ると、リビングの方からごそごそと音がした
「リン…っ…」
「?」
息苦しそうに自分を呼ぶ声が聞こえて、リンはリビングを覗いた
「げ」
アットの背中と両手が小刻みに動いているのが見えた
昨日の昼間から着ていたであろう白い礼服用のワイシャツが、細いが筋肉質な背中に汗で張り付いている
その姿が妙にセクシーで、リンは気づかれないように背後から近づいた
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