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第134話 秘密の会合③
※胸クソ苦手な方は飛ばしてください※
「その日、長谷川と芳賀だけがハセから別の仕事を頼まれていたらしいよ。これはハセと一緒に逮捕されたヤツから聞いた話なんだけど…」
「別の仕事って…」
鮭児は先程からうつむいたままカタカタと震えているマサトから目を離さず
「女性の調達」
と言った
「ゲスい話だけど、ハセは芳賀と長谷川にことあるごとに女性を調達させて、ハセはその女性たちを味比べしていたらしい。【ポイント制】と言って、ポイントが上だった方は組織の幹部か片腕になれるとかだったのかもしれないね」
リンは鳥肌が立った
そんなことを現実でやる連中がいるなんて思わなかった
そして、一時は義叔父として慕った男がそれに荷担していたなんて
「マサト君はもうわかってるんだよね?長谷川がその日、誰をハセに差し出そうとしたか」
「誰?マサトさんの知ってるひと…なんですか?」
マサトの身体はもう恐ろしさで震えてなどいなかった
代わりに、膝の上で握りしめた拳だけが強い決意でうち震えていた
※※※※※※※※※※※※※
リンはマサトを残し何でも屋を出た
秋葉原の街は休日で賑わっていた
鮭児から聞いた話を何度も思い出しては整理した
オノデンの前を通ると、ガラス張りのオープンスタジオの前に人だかりができていた
誰かの生配信が行われているらしく、軽快な声が聞こえた
『はい、それではお待たせしました。今日のゲストはすごいよ!今期絶賛放映中のアニメ、『オタクな彼氏の育て方』ヒロイン、アオイ役の孫田秋良 くんです。よろしくー!』
リンは一度通りすぎて立ち止まった
マゴタアキヨシという名前に聞き覚えがあった
(確か、タキさんのアニメの声優のひと…)
リンはつま先立ちしてスタジオを覗こうとした
しかし目の前に背の高い男性がいてよく見えない
「すみません…」
リンは男性の隣に身体をねじこんだ
「あれ?リン?」
名前を呼ばれて声の方向を向いた
「あ…」
邪魔だな、と思った背の高い男性はコノエだった
「こんなところで何してるんですか?」
思わず本音が漏れた
事実、秋葉原のこの場でコノエは浮いていた
どんな街にもオシャレなひとも垢抜けないひともいるが、コノエの存在はそれとは別種の異質感だった
「ああ。アキラの仕事が終わるの待ってて」
「アキラさん、メイドカフェでしたっけ?」
「うん。今日はこれだけどなー」
コノエがスタジオを指差した
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『男の子なのに、女の子の声出すのってやっぱり難しい?』
『僕、そもそも男の子役をやったことないからよくわかんないんですけどー』
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スタジオの中で話しているのは、まさしくアキラだった
※※※※※※※※※※
先日のマサトの結婚式の二次会で、コノエから紹介を受けたアキラが
「お噂はコノエくんから聞いてます」と高く明朗な声で言った
リンがちらりとコノエを見ると、
「ああ、元プレーヤーなのに実はオーナーでしたっていうマンガみたいな話はしたわ」
リンは、サタが押し入った事件の後、危機管理の観点から自分がオーナーだということをスタッフ全員に伝えた
そうすればダイレクトに全員から情報が集まるし、個人的な相談にも乗りやすくなる…
(まあ、バラしたからってマサトさん以外からの連絡なんてないけど…)
リンは自分の人望のなさにあきれた
※※※※※※※※※※
「俺だって、まさかアキラさんが声優だとは思わなかったです」
「デビュー自体最近なので…」
アキラが照れ臭そうにはにかんだ
こうして近くで見ていても、女の子にしか見えない
派手で高身長のコノエと並んで歩いていると、さらに人目を引いた
「お前、アニメとかそういうの見なさそうなのに、よく知ってるな」
コノエが手持無沙汰でいじっていたストローの先をリンに向けた
「俺だってアニメくらい観ますし。それにタキさんの小説のアニメにも出演されるんですよね?」
【猫の涙の色】のアニメ情報を気にかけていたから名前を知っていたのだ
「実はもうすぐクランクインなんです」
そう言って笑うアキラの横で、コノエの表情だけが張り付いたお面みたいに凍りついていた
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