144 / 161
第144話 別れの季節②
夜10時、玄関先
5センチ幅のドアの向こうをサラリーマンがコツコツという足音を立てて通りすぎていった
「んっ…んっ…!」
息をするのも忘れるくらい唇をむさぼった後、エチゼンは乱暴にヒヤを引き離した
「…ごめんっ!ごめんっ!ひどいこと言ってごめん!俺もヒヤが好きっ!本当は別れたくなんてないっ!」
あの日、プッシールームが入るビルの階段の踊り場で、爪を噛んでいる姿を見たときから、ずっとヒヤだけに恋してきた
ギザギザのささくれだった指先はいまはきれいに整えられ、薄いピンク色のネイルが塗られている
ギザギザの爪も好きだった
ヒヤが戦ってきた証だから
でもやっぱり傷ついてないヒヤがよかった
エチゼンは、ヒヤの指から手の平、そして手首にキスをした
左手首を舐めると、盛り上がった傷が赤く染まった
それは理性がふっ飛ぶ色だった
エチゼンはヒヤを押し倒すと、服の中に手をいれて背中側に回した
「あっ…!」
ヒヤが背中をのけぞらせた
「コースケ!コースケ!」
のけぞった反動で、ヒヤがエチゼンの腰を両足で抱き抱えた
「ヒヤッ!」
「俺、もうコースケしか愛せないんだよう」
「俺も…」
「もう絶対浮気なんてしない!コースケだけいればいい!」
「俺ももうぜってーよそ見しな…ん?」
「…は?」
心臓と下半身に集中しかけていた熱が一瞬で引いていった
ともだちにシェアしよう!