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第152話 秋のペルシャ③
「はは…そこを指摘するのはマナー違反でしょ」
タキが上半身を起こすと、行き場をなくした緑人のモノがズルッと抜けた
出した時は固かったのに、空気に触れた途端に萎えた
「本気になってなきゃこんなこと言いませんよ。女の子のなかにはイケないコたくさんいますしね。それにタキさんは、仕事のことだってあるじゃないですか」
ふてくされていたタキの顔に不快感がプラスされた
「プッシールームのこと、どこで知ったの?」
「同僚が教えてくれました」
「ああ」
タキには、リークしたのが誰かすぐにわかった
顔はうろ覚えだが、九やヒヤに絡んでいたアイツだろう
緑人はタキの視線を無視して、枕元にあるティッシュボックスを引き寄せ外れたゴムをくるんで捨てた
タキも同時に後処理をした
プッシールームで仕事を初めてから、恋人を作ることさえ必要ないと思っていた
エチゼンのことを好きになったように、恋するだけなら自由だし性欲は仕事で処理できる
だが、店では当たり前の後処理も、ガラス一枚ないだけでこんなに虚しくなるものかと、久しぶりに思い出した
そこへ緑人が事態を一変させる提案を投じた
「イけない理由が仕事にあるなら、いますぐ店を辞めてください」
タキは瞬間的に怒りがわいてきた
だが、まだ冷静でいられる
「君にそんな権利はないよね?」
「あります。恋人になるんですから」
「俺はならない」
「なるつもりだったくせに」
「君がさっきの演技をスルーしてくれさえすればね!」
タキは怒鳴ってベッドを降りると、大股で冷蔵庫のところに行き、ミネラルウォーターを取り出して飲んだ
「…タキさんは、イッたことがあるんですか?」
「オナニーならいくらでも」
「それはどういうことですか?」
「相手がいるセックスじゃイけないの!昔からそうなんだから仕方ないだろ!だから俺にはプッシールームはなくてはならないところなんだよ。簡単には辞められないし、辞めるつもりもない。それに、イク、イカないは俺の自由だよね?それとも諏訪緑人は、恋人はセックスでイかせてなんぼだと思ってるの?」
タキはひと息で捲し立てると、あっという間にミネラルウォーターを飲み干して、空いたペットボトルをゴミ箱に叩きつけた
「独占欲で店を辞めろとかそういうこと言うんなら、俺たちは縁がなかったんだ。さよならバイバイ」
タキはそう言い放ち、散らかった服を拾い集めた
服を着たら帰ってしまう
シャワーも浴びずに
こんなに怒らせたまま
こんなに誤解されたまま
緑人はベッドの上の下着を拾って、タキの元に持っていった
タキは涙をためた目で緑人をにらみつけ、ひったくるようにして下着を受け取った
緑人はその手を逃がさなかった
意外にもタキは抵抗しなかった
これはタキから与えられた最後のチャンスだと緑人は思った
緑人が伝えたいことはたったひとつ
「イかなくても好きです」
「は?」
緑人はタキの両手をつかんで引き寄せ、耳元でささやいた
「イけなくて辛いかもだけど、俺にグズグズに愛させて」
「なんで…」
タキの手から力が抜けたのがわかった
緑人はタキの手から服をとると、ドレッサーの椅子の上に置いて、タキの両手の指に自分の指を絡ませた
「タキさんが言ったんじゃん。イク、イカないは本人の自由だって」
「そうだけど…」
「過去に何かあったんだろうなって察しはつくよ。でもそれは俺の想像だから、本当のことを知っておいてもらいたいなら聞くけど…」
タキは緑人から目を反らし、首を横に振った
「じゃあ、さっきの話なんだけど…俺と…」
その時、タキの目から涙がこぼれた
「さっきの俺の態度見てたでしょ?それでもそんなこと言えるなんて、諏訪さんどんだけMなの…」
緑人はポロポロとこぼれ落ちるタキの涙を指で掬い上げた
「初めて会ったときは、上品できれいな人だなとは思ったけど、物静かで正直タイプじゃなかった」
涙をしゃくりあげながら緑人を見つめるタキが幼い子供のように見えた
「でも、今日みたいな一面があるって知った時に、俺の心は持っていかれたの。だから…」
緑人はタキを抱き締めた
「あなたがいい。あなたの身体も中身もまるごと愛すから、俺とセックスしてよ」
「うん…!」
※※※※※※※※※※※※※
1時間ほどかけてスローセックスをし、緑人が2回イッたところで二人で布団にくるまって話をした
「プッシールームのこと知ってたのって、もしかして戸田山さんってひと?」
「そうです」
「九のことを知ってたのかな?」
「そうみたいです。ヒヤさん?のことも」
「あの口説き方サイテーだったよね」
「やっぱりみんな聞こえてましたよね?俺もそう思ってました。でもその後エッチまでいったみたいですよ」
「え?!ヒヤくんと戸田山さん、デキてたの?!」
「知らなかったですか?」
タキの反応を見て緑人は眉を潜めた
「だってヒヤくんは…」
エチゼンの顔が浮かんで心が痛かった
「デキてたって言っても、てんで相手にされてなかったみたいで、こないだいきなり切られたみたいですけど…」
別れ話が浮上した頃だ
ヒヤはエチゼンのために壮馬を切ったのだろう
それで納得などできないが、エチゼンは知っているのだろうか
自分が伝えたらどうなるのだろう
やましい考えが浮かんだが、タキにはもう口を出す資格はなかった
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