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第153話 三日月、猫たちの夜会①
いつの間にか、9月も終わりに近づいていた
その日、リンはマサトに呼ばれて渋谷に向かった
リンが到着すると、マサトはすでにホープくんの前に立ちスマホをいじっていた
ハチ公前やモヤイ像前のように、人がたくさんいたらどうしようと思っていたが杞憂に終わった
「お待たせしました」
「大丈夫。他のも遅れてるし」
「俺以外にも誰か来るんですか?」
「おう。お、ちょうど揃ったな」
マサトの視線の先に、鮭児とアットが歩いてくる姿が見えて、リンはドキッとした
いまアットは3日と空けずにリンと会い、その度に付き合いたてのカップルらしく身体を重ねてはいるが、アットがかつて鮭児を好きだったことを知っているから、複雑な心境だった
「このメンバーを集めたってことは、何か進展はあったのかな?」
合流するなり鮭児が楽しそうに目を細めて言った
「当事者集会なので、鮭児さんはオブザーバー役をお願いします」
マサトはそれだけ言うと、宮益坂に向かって歩を進めた
※※※※※※※※※※※※
店には【closed】の札がかかっていたが、マサトは気にすることなく店のドアを開けた
店には30台後半とみられるバーテンがカウンターに一人いるだけだった
先客は3人
「あれ?タキさんとコタローさん?」
今日はてっきり、ハセの調査結果を踏まえての今後の対策会だと思っていたのに、無関係な二人がいることに動揺した
「お二人もマサトさんに呼ばれたんですか?」
リンは二人の隣に腰かけた
「概要は聞いたけど、きな臭いことになってるね」
「面目ないです」
その時、オークのドアの鈴が鳴り、皆がそちらを見た
入ってきたのは長谷川だった
走ってきたのか、前髪が垂れておでこにへばりついていた
リンは胸のざわつきを覚えずにはいられなかった
長谷川を見ると、どうしてもミナミを思い出してしまう
アット…!
リンはすがるような思いでアットに視線を送った
それに気づいたアットが、鮭児を置いてリンの元にやってきた
「どうした?」
「なんでもない。でもここにいてほしい」
ただならぬリンの様子に、アットはリンの手をそっと握った
それを見たタキとコタローが目を合わせた
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