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第3話 ハジメとスグル

 ハジメが帰って来る。いつも勝手に部屋に入るスグルが今日もベッドの上で制服のまま、寝ている。本を読んだまま寝落ちしたらしい。  本をそっと動かして、そこに自分が潜り込む。本を支えていた手を自分の肩に持って来て抱きつく。 「う、ん?ハジメ帰ってたんだ。 女の子がハジメの事、待ってたから、オレ、先に帰った。もっと遅くなると思ったよ。」 「うん、女の子に告られた。付き合ってって。」 「付き合うの?」 「んな訳無いじゃん。話だけ聞いて断った。」 「ハジメは優しいからな。」  起き上がってハジメの長い髪を梳いた。二人とも髪を伸ばしている。スグルは一つにまとめ,お団子にして邪魔にならないようにしている。ハジメは一つにまとめただけだ。  この家では、祖父が絶対権力者で、サムライのようにキリリと一つに結ぶのを好む。 「新撰組の、斎藤一と沖田総司だな、若い頃の。 美少年だ。」  見て来たように言うが、祖父だって本物の新撰組を知らないだろう。  祖父は剣道師範であり、体術の有段者だ。 スグルも近所に住んでいるが、母のいない家に帰るより、ハジメの部屋にいる事が多い。  双子と間違われるほどよく似た従兄弟同士だ。 高校生。同じ学校。この界隈では二人揃えば敵はいない。身長も185cmを超えた。  二人はモテる。性格は違うが、顔はよく似ている。告られても誰とも付き合わない。二人でいる事が多い。  子供の頃から、毎日祖父の特訓を受けて来た。 男子たる者腕っぷしは強くなければならない、という祖父の教えで厳しく仕込まれて来た。  ハジメは跡取り、スグルは補欠とでもいう事か。  ハジメの部屋で、二人性欲を解放するためだ、と話し合って、抜き合いをするようになった。  キスまで、と決めてお互いを弄る。 「スグルなら安心。なんか他の奴は面倒なんだ。」  自己愛だと思う。ハジメの髪を解いて匂いを嗅ぐのが日課になって来た。自分と微妙に違う。  いつの頃からだろう。お互いにオスの匂いをさせるようになったのは。 (ああ、スグルは男なんだ。)  絶望的な気持ちでスグルに抱きつく。やり場の無い熱。 (ハジメはいつか、女の子と結婚するだろう。 オレには絶対叶わない夢だ。)  スグルの手を握る。ゴツゴツした長い指。 (この指が誰かの乳房を掴むんだ。 愛の言葉を囁くんだ。俺のいない所で。)  お互いに求めてはならない、と。

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