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第15話 アーカーシャ

 マコチンが 「インドのヒンディーの哲学にアーカーシャってのがある。  死は存在しない。死んでいる状態は休息。次に生きるための準備、だって。  生命は繰り返す。初めなく終わりなし。メビウスの輪のようだ。  でも全て一人で乗り越えなくてはならない。  今まで関わって来た人々や積み上げて来た自分、全てを断ち切られる。  それは究極の孤独、だ。これを知れば寂しくて生きる気力も無くなるかもしれない。  生きている時間なんてちっぽけなもの。死んだら生命の宇宙に一人っきりで放り出される。  だから生きてる間に、人は愛し合うんだよ。」  マコチンとメドウズは仲のいい普通の夫婦だと思っていた。 「私たち二人とも女、なのよ。 マコチンがおっぱい取って、男性ホルモンを打ってるから、髭なんか生えてるけど、戸籍上はまだ、女。レズビアンのカップル。  もう随分前のこと。私たちを結び付けてくれた友人が、インドで行方不明になったの。ジャンキーで心配だった。  それでインドに来たんだけど友人を助けられなかった。マコチンはひどく落ち込んで、何かしたいと考えたのね。最初はNGOの手伝いをしてた。  でもノンガバメント(非政府組織)といっても紐付きな部分はあるから、あの性格でしょ。  自分でサルベージするって。沼から引き上げるのにいちいち承認を待ってられないって。  それで二人でこんな事やってるのよ。」  マコチンとメドウズの話は興味深かった。 ハジメが生還出来たのは二人のおかげだ。  リハビリをかねて毎日ガンガーの畔を歩いた。 いろんな人を見た。ガンガーに死にに来る人も多い。死体を焼く煙が絶えることはない。  強烈なお香の匂いがする。死体の臭いとお香の匂い。死は身近にある。

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