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第16話 モノランジャン
「やあ、毎日会うよね。日本人か?」
インド人に声をかけられた。モノランジャン。
何か売り付けようとする。日本語が上手い。
「俺、金ないよ。旦那が死んじゃったからね。」
ポケットの小銭でルンギー(腰に巻く布)を買ってやった。
次の日ルンギーを巻いて散歩してると、またモノランジャンに会った。
今度はジョイント(軽い紙巻きのガンジャ)を売りつけようとする。
俺はリハビリ中だ。もう薬はやらない。軽いとかじゃないんだ。一切やらない。日本に帰りたいから。
モノランジャンはハジメに二度とガンジャを売りつける事はなかった。
チャイをご馳走してくれた。
モノランジャンとはいろんな事を話した。
ガンガーにいるのは乞食ではなくてサドゥだと言う。サドゥとは出家者。
ヒンディー教では人生には4つの時期がある。学習期、修行期、社会期、そして隠遁期。
この隠遁期に属する人々がサドゥとなつて托鉢しつつ諸国を遍歴するという。
サドゥとは死ぬための準備だろうか。昔は戸籍も抹消されて死者として扱われたらしい。
ガンガーは聖地。サドゥが集まって来るのは当然だ。
「モノランジャン、勉強になったよ。
俺、日本に帰るから、いつか遊びにおいでよ。」
ハジメは生きる気力を取り戻していた。
この頃は帰る事ばかり考える。スグルに会いたい。
数ヶ月後、ハジメは空っぽになって帰国した。
抜け殻だった。
スグルが迎えに来た。
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