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第17話 ハジメ
日本に帰ってからも、ハジメは抜け殻だった。何もしたくない。手につかない。日がな一日、家の周りを散歩している。
昔は武家屋敷が並んでいただろうか。今は閑静な住宅地。人通りの少ない道をひたすら歩く。
途中にある小さな公園で一休み。狭い敷地に似合わない大きな木が囲んでいる。何故かホッとする空間だ。
「こんな公園があったんだ。
子供の頃から近くに住んでいるのに気がつかなかったな。」
ゆっくり歩く。ガンガーの畔を歩いた時のように。何もかも違うインドと日本の空気感。
ハジメは老人のように、歩いたりぼーっと座ったり。道行く日本人は皆、忙しそうだ。
時々ジェロニモを思い出す。あの恐ろしい場面を鮮明に。
「気が狂いそうだ。」
いつも堂々めぐりの思いから抜け出せない。
「よぉ、お若いの、暇そうだのぅ。」
いつも出会う老人に声をかけられた。
「あんたの方が暇そうだ。」
ムッとして応える。放っておいてもらいたい。
(年寄りはこれだから嫌だ。老害と言われるんだ。)
「わしの家で茶でも飲まんか?」
「唐突だなぁ。爺いのナンパか?
どんな趣味だよ。」
散歩というか徘徊というか、何回か顔を合わせる内に、馴染んで来た老人に、退屈しのぎについて行った。
「こんな建物あったっけ?」
広い敷地に広い庭、数台の車が止まっている。
裏には背中合わせのように大きい神社が建っている。木々に覆われて都心とは思えないような、不思議な場所だ。近所なのに今まで知らなかった。
古そうな建物だ。
分厚い二重扉を開けて中に入った。
「ここは何だ?」
何かの店のようだ。静かに音楽が流れている。
「じいちゃんの家なのか?
なんか店みたいだ。広いなぁ。」
老人は奥に行ってしまった。
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