19 / 74

第19話 奥の老人

 ハジメは酒が回って、少しいい気分になった。その時、あの爺様が来た。ここに住んでいるのか? 「ふぉっ、ふぉっ、どうじゃな? リラックス出来たかのぅ?」 「何だよ。いきなりこんな所に連れて来て。」 「退屈そうじゃったからのぅ。 ここには面白い客が色々来るから、見ているだけで楽しいんじゃ。たかとうはじめ。  お父上も、祖父上も存じ上げておるぞ。 やはり、縁(えにし)があるんじゃ。」 「で、あんたの名前は教えてくれないのか?」 「ワシは匿名希望じゃが。 安倍晴明はどうじゃ? せいめいちゃんと呼んでもいいぞ。流行っているからカッコいいかの?   子供の頃はスサと呼ばれた。須佐之男命という名だったからじゃ。」 「爺ちゃんあんまり面白くないジョークだぜ。」 「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、、」 「笑ってんのか?咳き込んでんのか? 爺ちゃん死ぬなよ。」  煙に巻かれた。クエねぇジジィだ。  運ばれて来た酒と肴をゆっくり味わった。もう酩酊して自分を無くすのは嫌だ。俺は酔っ払うのが怖い。  シェリーは美味かった。ティオペペかな? 肴はピンチョスの皿に色々乗っている。スペイン尽くしって訳だ。俺はイスパニア語専攻だったからスペイン料理の店によく行った。懐かしい。    フロアがあって踊れるらしい。ステージもある。外から見るよりかなり広いのか?  お客は少ないが、時間はまだ早い。これからか?と思っていると何人か入って来た。  年齢層も色々みたいだ。一人で来たような男が隣に座った。凄い美少年だ。年齢不詳。綺麗な男。 「僕、モスコミュールで。」 (ジンジャーエールなんか飲むのはガキだな。) そんな目で見ていたら、そいつは 「ここのウォトカは、アブソリュートだから、 結構クルんだ。ジンジャービアだしね。」 「え、心を読んだ?」 「あはは、僕は貴方より多分年上だと思うけど。」  (それにこいつは常連っぽい。落ち着いている。) ーー因みに、その辺の居酒屋でウォトカとジンジャーエールを混ぜればモスコミュールと言っているが、本当はウォトカに注ぐのはジンジャービア。生姜を発酵させて作った飲み物だ。少し辛い。甘ったるいソフトドリンクのジンジャーエールではない。ーー 「貴方の事はお爺ちゃまから聞いてる。 2階に行く?」  ナメられたくなくて、慣れたフリをして2階について行った。2階にはドアがずらりと並んでいる。一つのドアを開けると大きなベッドがある。 「え?ここは?」 いきなり抱きついて来た。  久しぶり、スグル以外の男。キスが甘い。 (こいつ、スゲー慣れてるなぁ。)

ともだちにシェアしよう!