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第29話 ロジャーの結婚

「なんでユーツーっていうの?」 「僕、祐太っていうの。本名。 初めての男が、ユータって子と付き合ってて、 僕は二人目のユータだから、ユーツーって呼ばれた。ツーはtwoだよ,二番目。」 「そんな呼び名、悲しくないのか?」 「ガキだったからね。13才だった。」 (今は18才だって?若いのに経験豊富なんだな。 不甲斐ないことに私はツーに夢中だ。)  世間に隠し通さなければならないと思っていた。お互いの仕事に、ゲイカップルであるという事はマイナス要素でしかないと。  ユーツーのためには絶対知られてはならない、と考えて隠し通した。  ロジャーはそのために結婚までしたのだ。もちろん女性と。隠蔽工作。  以前からアプローチしてくる学部の主任教授の娘さん。35才のロジャーに30才の才媛。  形ばかりの見合いの席で、彼女の話を聞いた。ずっとバレエ留学でパリにいたそうだ。洗練された美しい女性だった。 「日本に戻るということは、バレエを辞めるんですか?」 「はい、私一人でいるのが辛くなってしまいましたの。父も母も私を自由にさせてくれたけど、才能が無かったのですわ。  バレエは禁欲的です。食べる物も行動範囲も自分で制限するのです。」 「バレエ団には男性もいたでしょう。 恋に落ちることは無かったのですか?」 「先生はご存知ないのね、バレエ団の中では、全員ライバルなのよ。恋なんて御法度。 セックスも禁止です、身体の線が崩れるから。」 イタズラっぽく笑う彼女はとってもキュート、だった。 「私は書斎に籠ることもある。 集中すると貴方の相手は出来なくなる。 失礼な男なのですよ。」 「ほほほ、いつもベッタリな関係より良くないですか?適度な距離感は大事です。」 (私の言わんとする事を、わかっていないな。) 齟齬があった。気付かないフリをした。 彼女の父教授も、 「まあ、五十嵐くんも学会で海外に行くとき、妻がいないと肩身が狭いだろう。  奥さん同士の交流も必要だからね。」 教授の圧が凄かった。

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