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第31話 カミングアウト

 唐突に無理矢理離婚を切り出した。もう一刻も早く別れたい。失うものなどない。  彼女は何も要求しなかった。男女の関係でなければ良き友人になれたかもしれない。  ロジャーは自分の持ち株会社、サー・リチャーズ商会の株の一部を分けた。  亡くなったサー・デビット・リチャーズがロジャーに残した紅茶の輸入会社だ。  欲のない潔さを見せた、妻だった人にせめてもの誠意だった。 「ツーちゃん、仕事辞めろよ。嫁に来い。 みんなに公表しよう。」  ロジャーはユーツーを独占したい。 大学に知られても、問題は無いと思えた。 カミングアウト、してしまおう。  それは一時的に話題になりマスコミに揶揄されるかもしれないが、やがて忘れられるだろう。 「ホモセクシャルの大学教授」 ロジャーに貼られたレッテルに、いっその事、セイセイした気分だった。  公表したら一緒に暮らしたいと思っていたが、 ユーツーは断固として同棲を断って来た。  仕事を辞めてくれると思っていたのに。 「だって、僕今仕事が楽しいんだ。 ロジのおかげで堂々と働ける。  自分の可能性を試したいんだ。」  ユーツーは逃げも隠れもしないと、ロジャーの生きる姿勢から学んだ、と言った。  それからのユーツーの活躍は目を見張るものがあった。  そして世界的なデザイナー、クロード・レイの目に止まる。フィレンツェにツーを連れて行くと言う。レイは有名なゲイだ。  ユーツーを愛している、と公表した。イタリアに連れて行く、と世界中の報道を集めて、熱い口づけを見せつけた。  ロジャーは一人、その記者会見をテレビで見た。

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