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第35話 プロスティチュート

 バーの準備をしつつ、あの倶楽部に顔を出す。 週末は賑やかなゲイパーティで、ビッグバンドの演奏もあるが、平日には、静かな音楽が流れている。客のリクエストで何でもかかるが、煩いのと下品なのはお断り、らしい。  ステージの前にピアノが置いてある。グランドピアノが誰でも弾けるように解放されている。  今日は粋な男が、ジャズを演奏していた。 何故か、スグルは、自分と同類の、孤独の匂いを感じた。  そばに綺麗な男が張り付いている。演奏が終わってこちらに来た。こちらはおひとり様用のカウンター席だ。一人客なのか。張り付いているのは恋人のようだが。  カウンターの中の黒服のバーテンダーに酒を注文している。 「ミカドにシャンパーニュを。 私にはジンジャーエールだ。 ウィルキンソンの辛口を。」 「ロジャーは呑まないの?」 「車なんだ。」  小さな声で何か、囁いている。 「抱いてくれないの?」 「今夜は帰らないと。 ご老人に用があっただけなんだ。」 飲み物に手をつけて、ミカドと呼ばれた人に軽くキスすると、席を立って行ってしまった。  背が高い。スグルと同じくらいだろうか。とてもハンサムだ。日本人の血だけではないだろう。  それより、ここにいるこの人がミカドなのか? ハジメが惚れて骨抜きにされた男娼。  思い切って声をかけた。 「ミカドさん、今夜は一人ですか? お相手してくれませんか。」 「ボクの事、知ってるの? 何処かで会った事・・あ、ハジメちゃん?  違うわね、でも、そっくり。」 「従兄弟なんです。 俺と今夜、付き合ってもらえませんか?」 「ボクを抱きたいの?ボク、高いよ。 貴方に払えるかな。」 「ホントにプロなんだね。」 「そう、プロスティチュート。 でもボクが特別に気に入った人にしか抱かれない。」 「俺は、どう?」 「うーん、キスして。」 熱い口づけを交わした。

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