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第45話 出雲の人

 奥の老人が出て来た。スサも一緒だ。 (ドッペルゲンガーとは言わないな。 同時に存在しているのだから、別人だ。)  何故おかしな事を考えたのか、ロジは混乱している。 「スサはもうすぐ休暇が終わるのじゃ。 行くのは今夜だけじゃよ、ロジャー頼んだぞ。」  スマートなスサという若者は簡単な身支度でロジの車に乗り込んだ。小鉄も一緒だ。  フェラーリは置いて行くらしい。  ロジの運転で思わぬドライブに、ミトははしゃいでいる。  スサは緊張しているようだ。 それとも車酔いか、気分が悪そうだ。 マイバッハはメルセデスの中でも特に安定した、走りを見せる車種だが。 「あまり、車に乗った事が無いんです。」 「え、今どき?普段は何に乗ってるの?」 「うん、馬、とか。」 「ええーっ!」 「どこで育ったの?いつの時代に?」  奥の老人の存在も謎だがこの青年も相当だ。 自然の中で育ったのか。  ロジとミトのカップルに対して、抵抗はないのか?  家に着いてからも、いつものようにロジの膝に乗って甘えているミトだが、今夜は少し控えめだ。それでも二人がゲイだと一目瞭然だ。  しかし、スサは気にならないようだ。 あの倶楽部で見慣れているというのか? 「会いたかった! スサは僕に会いたかった? 僕の事、忘れてなかった?」  直球で聞くところが子供っぽい。ミトはいつも自分の感情をそのまま、口に出してしまうのだ。  今まではロジの庇護のもとに守られて来た。 でもスサ、と言う人を何も知らない。  ただ自分の想いをぶつけているだけだ。 「君はあの倶楽部に住んでいるのかい?」 ロジが訊いた。 「いえ、たまたま伯父の所に来ていたので。 もうすぐ帰ります。休暇も終わるので。」 「何処に帰るの?」 「出雲です。牧場なので。馬の世話が有ります。 伯父たちが、年に一度帰って来るのを 手伝っています。」  確かに、ご老人たちは年に一度、10月に出雲へ行く。そこに住まいがあるという。 「ミト、聞いただろう。家は遠いって。 いつかは帰ってしまうんだよ。」  確かに島根出身のご老人もいらっしゃる。 神無月には、こぞって出雲に行ってしまうのは周知の事だ。 「やっぱり、神様系かぁ。」

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