56 / 74

第56話 スサの妻

 突然、庭に面した障子が開いた。 「あら、ようこそいらっしゃいました。 朝食はまだお済みじゃないのね。  お給仕いたしましょうか?」 「誰?」小さい声で聞いた。 「ああ、俺の妻だ。 須佐 緑子(すさ みどりこ) 」  僕は思わずスサの膝から飛び上がって、正座してしまった。 「結婚してるの?」 「初めまして。気になさらないで。 ご遠慮なく。」 「緑子、悪趣味だな。覗きに来たのか?」 「お綺麗な方ね、ミトさん。 珍しく稔彦(なるひこ)がご執心なので、お顔を拝見しに参りましたの。ごゆっくりどうぞ。」  ミトは震えてスサに抱きついてしまった。スサは緑子さんに見せつけるように、僕に口づけした。 「やめて、恥ずかしいよ。」  キッと睨んで、緑子さんは戻って行った。 「ひどいよ。奥さんがいるのに見せつけるようにこんな格好の時に呼ぶなんて。」 「呼んだわけじゃないよ。勝手にきたんだ。」 「酷いよ。僕も奥さんも傷ついたよ。」 「あの人は慣れてるから、平気だよ。」 「だって顔が夜叉だった。 スサはいつもこんな事、やってるの?  奥さんに嫉妬させたいの?」  抱き寄せて優しく囁く。 「今は誰よりもミトを欲しいんだ。」 「人でなしなんだね。」 「ロジャー先生と同じ事,してるだけだろ?」 「同じじゃない。 ロジャーは誰も傷つけない。  いつだって最適解を示してくれるよ。 スサは酷い人だ。」  ミトをその腕に抱きしめて 「でも、好きだろ、俺のこと。」 その自信は何処から来るのか?

ともだちにシェアしよう!